週刊エコノミスト Online2020年の経営者

ペンで描く楽しさ、伝えたい 数原滋彦 三菱鉛筆社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都品川区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都品川区の本社で

    ペンで描く楽しさ、伝えたい

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナの影響は。

    数原 人々が少しずつ動き出し、店頭での売り上げは戻りつつあります。しかし4~5月は店舗が閉まったところもあり、コロナの影響は大きかったといえます。オフィスで使用するボールペンなどの売り上げが減っています。筆記具を大量に買っていた外国人観光客がいなくなったことも、影響しています。しばらくはこの状態が続くでしょう。

    ── 売れ行きに変化があった商品はありますか。

    数原 外出制限によって自宅で過ごす時間が増えたため、サインペンや色鉛筆などの巣ごもりの需要が高まりました。家庭でのちょっとした工作や飾り付けなどにサインペンが使われているようです。

    ── 主力商品の「ジェットストリーム」シリーズはボールペンの代名詞ともいえる商品ですね。

    数原 海外では2003年から、国内では06年から販売し、年間1億本以上が売れています。油性インクでありながら、従来のような高粘度の重い書き味ではなく、さらさらと書ける水性のような書き心地を実現したボールペンです。新しいカテゴリーの商品だったので「この商品が本当に売れるのか」という声が社内にありました。しかし、滑らかに書け、インクの乾燥も早いといった特徴が評価され、ユーザーの心に「刺さっている」のだと思います。

    ── 0・28ミリの極細のペン先の「ジェットストリーム・エッジ」を昨年発売しました。

    数原 0・38ミリまでは既にありました。ペン先のボール部分が小さくなると、ボールの回転数やインクの量、ペン先の耐久性も変わるので開発は難しくなりますが、さらに細いボールペンを求めるユーザー向けに販売しました。手帳に細かく書くような男性ビジネマンを想定していましたが、実際には女性客にも買ってもらえているようです。

    ── 40色あるサインペン「エモット」を、5色ずつのグループに分けてセットで販売する試みもユニークです。

    数原 デザインにこだわる人は、サインペンを多色で購入することが多いと思うのですが、自分が表現したい世界観の色合いには、どういう色の組み合わせがいいのか、40色もあると選ぶのは意外に難しい。そこで、「フローラル」「キャンディーポップ」「レトロ」など8種類の組み合わせを提案しています。例えばフローラルなら、ベビーピンク、ピュアピンク、ライラックなどの色で花を思わせるやさしいカラーの世界を表現できます。

    多角化が課題

    ── そもそもは鉛筆の製造・販売から始まった会社です。

    数原 鉛筆ブランドの「ユニ」は昭和33(1958)年に発売し、当時は1本50円で今の貨幣価値に換算すると700~800円に相当します。ユニの名前はユニークが由来で、高価で簡単には買えない商品でした。鉛筆の市場はだんだん縮小していますが、数少ない鉛筆メーカーとして守っていきたい商品です。

    ── 海外売り上げ比率が4割を超えています。

    数原 国内は人口減少が進むため、海外に攻めていかないといけません。将来は5割以上に拡大したいと考えています。昨年、米国に子会社を設立しました。代理店を通してではなく、自分たちで直接売っていく戦略です。海外に13の子会社があります。アジアと米国が重点市場です。

    ── 海外ではどんな商品が人気ですか。

    数原 米国では水性ボールぺンやゲルボールペンが人気です。筆記体を書くために、インクがたくさん出る水性が好まれるためです。韓国ではジェットストリーム、台湾はゲルボールペンと、地域によって売れ筋商品が違います。

    ── 筆記具以外の商品は。

    数原 売り上げの9割以上が筆記具関連のため、多角化は最大の課題です。ペン型のアイライナーなど化粧品や、鉛筆の芯の技術を生かしたカーボン関連の事業を、30年以上前から展開しています。ただ売り上げは5%に満たない状態なので、新しい柱を作らないといけません。

    ── デジタル化が進むと筆記具が必要なくなるかもしれません。

    数原 既存の筆記具が減っていくことは当然あるでしょう。全社員が危機感を共有しています。そのためデジタルの分野に参入できないか、挑戦しています。その一つがデジタルペンです。我々とデジタル機器製造のワコムでペンを共同開発し、ソフト開発のセルシスの技術を組み合わせ、タブレット上で鉛筆の書き味を再現しました。具体的には(濃さや硬さを)10Bから10Hまで選ぶことができ、鉛筆と同じようにタブレットの画面で表現できます。紙と同じような線が描けるとイラストレーターなどプロのユーザーから高い評価を得ています。(2020年の経営者)

    (構成=神崎修一・編集部)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A リーマン・ショックは海外営業の担当課長として、東日本大震災は群馬工場長として大変な現場を経験しましたが、何とか危機を乗り越えました。

    Q 「好きな本」は

    A 佐藤一斎の『言志四録』です。先輩経営者から薦められ、何度も読み直しています。

    Q 休日の過ごし方

    A 3人の子供たちと、山登りやキャンプに行きます。ゴルフもします。


     ■人物略歴

    数原滋彦(すはら・しげひこ)

     1979年生まれ、慶応義塾高校、慶応大学経済学部卒業、2001年野村総合研究所入社。05年三菱鉛筆入社。群馬工場長、取締役経営企画担当、副社長などを経て、20年3月から現職。東京都出身、41歳。


    事業内容:筆記具や筆記具周辺商品の製造・販売など

    本社所在地:東京都品川区

    設立:1925年4月

    資本金:44億9700万円

    従業員数:3124人(2019年12月末、連結)

    業績(19年12月期、連結)

     売上高:620億3400万円

     営業利益:72億200万円

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