コロナ下の世界で食糧価格が爆上がりしているワケ 中国の「食料爆買い」が需給をひっ迫させている……
シカゴ穀物相場は8月以降、上昇に転じている。
大豆は10月12日に、1ブッシェル=10・60ドルと、2018年6月以来の高値を付けた。
小麦は同6ドル弱、トウモロコシは同4ドルをにらむ。
大豆は10月6日、先物市場において反対売買(決済)されずに残っている売買契約数量である「取組高」が102万枚と大台を回復した。
取組高の増加は穀物市場への資金流入を意味する。
取組高の100万枚超えは1996年2、3月以来、約24年半ぶりとなる。
穀物相場上昇のきっかけは悪天候と中国の輸入増だ。
米中西部では8月にハリケーンや高温乾燥に見舞われ、当初の豊作予想が一変。
米農務省は20年の大豆生産量見通しを2カ月連続で下方修正した。
また、中国が米国産穀物に対する買い付けを活発化。
背景には米中貿易協定の第1段階合意(大豆、トウモロコシなど500億ドル規模の米農産物購入)がある。
米国の中国向け大豆輸出成約高は9月半ばまで累計で3200万トンと記録的数字になり、投機筋の買い意欲が膨らんだ。
米農務省は20年後半~21年前半の中国の大豆輸入量を前月の9900万トンから過去最大の1億トンに引き上げた。
世界最大の豚肉輸入国
中国は食肉の価格も押し上げる。
18年夏に発見されたアフリカ豚熱(ASF)は、有効なワクチンがなく全土に拡散。
15年に4億7000万頭を数えた豚飼養頭数は20年に3億1000万頭まで減少。
生産量も18年の5400万トン超(世界全体の48%)から20年には3800万トンまで減少した。
豚肉需給は逼迫(ひっぱく)し、19年前半まで1キロ=15元(225円)程度で推移していた豚肉価格は、今年10月には28元(420円)まで上昇。
19年通年で前年比42・3%上昇し、消費者物価指数(CPI)を3%近くまで押し上げた。
中国では食肉の7割近くが豚肉だ。
生産が頭打ちとなる一方で需要は増加し、輸入量が急増。
16年は216万トンと日本の136万トンを超え、世界最大の豚肉輸入国となった。
中国の20年の輸入量は480万トンに急増し、世界の豚肉貿易量(1080万トン)の4割強を占めるとみられる(図)。
また、養豚事業の再生のためには良質で大量の飼料(大豆ミール、トウモロコシ)の安定的供給体制が不可欠であり、米国、中南米などからの大量輸入が前提となる。
中国による豚肉の爆買いを発端として世界的に肉類と穀物の需給が逼迫すれば、インフレ圧力を高める要因になる。
これは市場金利の上昇にもつながる。
中国社会科学院・農村発展研究所は「中国の食料供給不足は25年末までに約1億3000万トンに達する見通し」と指摘した。
中国の食料問題は長期的に世界経済の不確定要素となろう。
(柴田明夫、資源・食糧問題研究所代表)
(本誌初出 リスク4 穀物・肉 インフレ招く中国の「爆買い」=柴田明夫 20201103)