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「もし今日戦争が起きたら」中国軍が台湾に向けて過激な動画を配信したワケ……1996年の台湾海峡危機以来の緊張が続く

アザー米厚生長官が8月10日に台湾を訪問すると、中国軍の戦闘機が事実上の中台境界線として機能してきた台湾海峡上の中間線を越えて台湾を威嚇した。

9月18日にもクラック米国務次官の訪台に合わせ、中国軍が台湾海峡で軍事演習を行い、多くの戦闘機が中間線を越えた。

蔡英文政権を支持する台湾の有力紙『自由時報』は社説(9月21日)で「米中が力を競い合う中、台米関係が熱を帯び、断交以来の高みに達した」と米台関係の強化を評価し、それが中国の軍事的威嚇につながっているという認識を示した。

「もし今日戦争が起きたなら……」。

台湾海峡を管轄する中国軍東部戦区がネット上で物騒なタイトルの歌とミサイル部隊などの訓練映像を盛り込んだ音楽ビデオを流したのも9月21日だった。

香港の中国系紙『大公報』は「米台がレッドラインを越えれば、演習は即時に実戦に変わる」と題した論文(9月23日)でこのビデオに触れ、「1996年の台湾海峡危機以来、最も緊張している」と指摘した。

『ニューヨーク・タイムズ』紙も「中国が言葉を強め、米国にレッドラインを警告している」と題した記事(10月6日)でこのビデオに言及した。

同紙は「ただちに戦争につながるわけではない」としながらも偶発的衝突の可能性に警戒を示した。

中国は台湾海峡だけでなく、南シナ海や東シナ海、黄海、渤海など周辺海域での軍事演習を繰り返している。

8月26日には中国本土から南シナ海に向け、中距離弾道ミサイルの発射訓練を実施した。

香港紙によれば、浙江省から「東風21D」、青海省から「東風26B」が発射された。

どちらも米空母を照準に対艦ミサイルとしても使用できる「空母キラー」とされる。南シナ海だけでなく、台湾もにらんだ米国へのシグナルと受け止められた。

さらに中国外務省の汪文斌報道官は9月21日の記者会見で「いわゆる海峡中間線は存在しない」と述べた。

香港紙『明報』は社説(10月5日)で「中台関係が良好な時の暗黙の了解でレッドラインを越えれば、存在しない」と指摘し、報道官発言は米台に対する警告と解釈した。

アザー米厚生長官の訪台に合わせ、中国軍は威嚇行為を行った(Bloomberg)
アザー米厚生長官の訪台に合わせ、中国軍は威嚇行為を行った(Bloomberg)

衝突回避の動きも

中国の警告を真剣に受け止めたのか。米側に変化が見られた。

スティルウェル国務次官補が9月17日の上院外交委員会で「(台湾の)主権問題に関して我々は立場は持たない」と述べ、中台の平和的な話し合いで決定すべきという見解を示したのだ。

さらに親台湾派で対中強硬姿勢で知られる共和党のルビオ上院議員が9月23日、「米国は慎重に対応しなければならない。過度に刺激して衝突を引き起こすことは避けなければならない」と語った。

先に引用した明報社説は「ワシントンは衝突が起こりかねないと悟り、ブレーキをかけた」と発言の変化の意味を分析する。

台湾の呉釗燮外交部長も米公共ラジオのインタビュー(9月22日)で「現時点では米国との完全な外交関係を追求しない」と抑制的な見解を示した。ただ、蔡総統は「領土と主権では一歩も譲らぬ」と中国の圧力に屈しない姿勢を強調している。

軍事的緊張の高まりの一方で、米中台それぞれが相手の手の内を探る外交的駆け引きを続けているともいえそうだ。

(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)

(本誌初出 米高官訪台に中国が威嚇 緊張高まる台湾海峡=坂東賢治 20201027)

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