経済・企業コロナで消える・勝ち残る大学

約3万6000人の学生が「AI」によって一人一人最適化された教育を受ける……中国のNeusoft大が日本の教育を遙かに凌駕している事実

全寮制の東軟信息学院
全寮制の東軟信息学院

 中国では、2740校の大学(うち私立は773校)で、約3000万人の学生が学ぶ。中でも急激な進化を遂げているのが、IT大手のNeusoftグループが2000年に大連市・成都市・広東省の南海に設置した私立大学、「東軟信息学院」(以下Neusoft大学)だ。

 IT関連学部、デジタルアート学部、英語学部、日本語学部など13の学部からなり、学生数は学部生と短大生で計3万6000人。卒業生の累計は10万人を超える。国士館大、北海道情報大など、日本の大学とも交換留学などの協定を結んでいる。オンライン教育の豊富なノウハウと先進的な教育プラットフォームを武器に、リアルとオンラインを融合させた教育を展開する。

 Neusoft大学の温涛学長によると、同大学は個々の学生のモチベーションアップと学習効率の向上を図りながら、学びを支援するオープンな「学習センター」化を急ぐという。そこでは、AIを活用し、学生一人一人にパーソナライズされた教育を提供する。具体的には、学生の学習プロセスの分析、パフォーマンスの分析などによって弱点を見極め、克服を図っていく。学習者主体のアクティブラーニングを継続的に実施し、学生の知識を深め、能力を引き上げる。

 また、教員一人一人の教育の質を確保するため、学生への授業アンケートのほか、学習の到達目標と達成度などの情報をAIで統合させた評価システムを作り上げるという。

 Neusoft大学のオンライン教育プラットフォームは、すでに約300の大学で8万7000人に活用されている。さらなる成長戦略として、他大学へプラットフォームを提供するという新たなビジネスモデルを展開している。

最初に設立された大連東軟信息学院のほかに二つの分校がある
最初に設立された大連東軟信息学院のほかに二つの分校がある

教育システム販売も

 中国の大学は、原則的に全て全寮制。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本の文部科学省に相当する中国教育部による「停課不停学(休校しても学習は続ける)」の方針により、大規模なオンライン教育を開始した。教育部のデータによると、20年5月8日時点で全国1454の大学がオンライン教育を開始し、107万のコースをオンラインで開講。1775万人の大学生がオンライン学習に参加。合計すると、23億回のオンライン授業が開催されていることになるという。

 中国の大学の多くは、オンライン教育のメリットを実感したことで、オフライン教育の再定義、つまり、オンラインとオフラインを効果的に融合させて新たな価値を見いだそうという新たな段階に入っている。足元では、教育業界を挙げて、人工知能(AI)、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、その他のテクノロジーを統合した教育システムの開発が進んでいる。

(寺裏誠司・学び代表取締役、大学支援機構理事)

(本誌初出 中国大学事情 AIで学生ごとに教育最適化 Neusoft大の革新度=寺裏誠司 20201013)

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