「生徒のつまづきを自動判定」「偏差値が約5ポイントも上昇」脅威の教育効果に大手予備校や大学で活用が進む「AI教材」とは何か
新型コロナの感染拡大をきっかけに、大学受験の世界でも、オンラインでの学習が広がっている。最新の流れは、AI(人工知能)を使った「アダプティブラーニング」と言われるものだ。パソコンやタブレット端末を使い、オンライン経由で、生徒それぞれの学習進度に合わせ、最適な問題を出す。予備校に通わず自宅で学べるため、感染防止に有効だが、最近ではその学習効果の高さに注目が集まっている。
「駿台予備学校」を運営する予備校大手の駿河台学園は、ベンチャー企業「アタマプラス」(東京・品川)と提携し、今年4月から、高校既卒生を対象に、AI教材「atama+」を使った新コースをスタートした。科目は、英語、数学Ⅰ、数学Ⅱ、物理、化学の五つ。授業の3分の1をAI教材を用いた演習、3分の2をプロの講師によるオンライン動画講義(7月から登校授業)とし、相互に連動する内容だ。
このコースを履修した生徒について、5月と7月の模擬試験の成績を比較したところ、全科目合計の偏差値は4・45ポイント向上した(図)。特に、数学Ⅱでは、5・54ポイント上昇、「理数系を中心に目に見えた効果が出た」(駿台エドテック担当部長の小沢尚登氏)という。
昨年同時期のAI教材を用いないコースでは、全体の偏差値の向上率は2・66ポイント。数学Ⅱでは、2・91ポイントだった。
成績向上の背景には、AI教材が、生徒それぞれの理解度に応じ、出題することがある。例えば、「正弦定理」の問題を解くには、高校の学習範囲である「三角比の定義」に加え、中学の「三角形の相似」「三平方の定理」「平方根」なども理解しておく必要がある。しかし、今までの授業では、1人の講師が大人数の生徒を相手にするため、生徒1人1人の理解度を細かく分析することが難しかった。
AIが「つまずき」分析
AI教材では、簡単な練習問題により、生徒がどの単元でつまずいているかを判定。その部分を抽出し、重点的に練習問題を作成するほか、オンデマンドの解説ビデオで、基礎を学び直す。予備校の講師は、オンラインで各生徒の学習進度を把握できるため、生徒1人1人に的確なアドバイスをすることが可能になる。
駿台では、今回の実績を受け、2021年度から全生徒を対象に、atama+を導入する計画だ。予備校大手の河合塾(名古屋市)も、教育ベンチャーの「コンパス」(東京・品川)と開発したAI教材「キュビナ」を導入している。
東証マザーズ上場のすららネットは、小中高だけでなく、大学入学後の学び直しにAI教材「すらら」を提供している。少子化により、「小中高の基礎学力が身についていない学生も出ている」(同社の湯野川孝彦社長)。薬学部や福祉学部を持つある大学は、講義の理解に必要な中学・高校数学と、論文作成に必要な中学範囲の国語について、すららを導入。国家資格の準備につながる「基礎講座」の再テスト合格率は、2013年の13%から14年には47%に向上した。現在、十数大学がすららのAI教材を導入しているという。
(稲留正英・編集部)
(本誌初出 消える大学 勝ち残る大学 受験対策もAIで 「個別最適」で偏差値大幅アップ コロナで導入加速=稲留正英 20201013)