どうすれば日本の高校から直接「ハーバード」「ケンブリッジ」に入学できるのか 灘・開成・筑駒でもほとんど受からない「難関」に近年注目が集まるワケ
日本の高校生が米ハーバード大や英ケンブリッジ大といった海外トップクラスの大学への進学を志すケースが、この10年で劇的に増えている。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長やソフトバンクグループの孫正義会長兼社長ら、日本を代表する財界人による奨学金制度をはじめ、年間数百万円もの学費を支払うためのバックアップ体制が整ってきたことが大きい。
ただし、海外トップ大学に合格できるのは、灘、開成、筑波大付属駒場といった国内トップ校でもごく一握り。ハーバードで3人程度、米国の名門大学グループ・アイビーリーグ全体でも10〜20人だ。海外の小中学校に通学した経験のある帰国子女も、海外に住んだことのない生徒もいる。彼らはどうやって、狭き門を突破するのか。それを理解するにはまず、海外の大学の入学者選考システムが、日本の大学入試とは大きく異なることを知っておく必要がある。
米国の大学を受ける場合は、まずオンラインで願書を提出する。願書には、高校の学業成績に加え、ボランティアやスポーツなどの課外活動の実績、数学オリンピックや物理オリンピック、模擬国連大会やディベート大会といった各種コンテストの受賞歴を記す。これに加え、米国の大学進学希望者を対象に実施される共通外部試験のSATやACT、TOEFL iBTなど、必要なテストスコアを提出する。アイビーリーグを目指すなら、TOEFL iBTは最低100点は必要とされる。合格者の多くは満点の120点に限りなく近いスコアを保持している。
更に、日本に住むその大学の卒業生が、これらの書類を基に面接し、英語力や人間力、その大学にマッチしているかどうかを見極める。最終的に合否を決めるのは、エッセーだ。何のために大学に行くのか、どんな人生を送りたいのか、社会にどう貢献したいのかといった哲学的な問いに、しっかりした考えを述べられるかどうかが重要だ。どんなに成績が良くて優れた賞を得ていても、独自性や創造性がなければ受からない。
東京大の入学試験問題は世界一難しいと言われるが、その問題を解いて合格点を取ることと、ハーバードやMITに合格することは、まったく次元が異なるのだ。
トップ大学に限らず、海外の大学を進路の選択肢に入れる流れは広がっている。進学校がネーティブの英語教員を採用するようになり、例えば早稲田や慶応に行くならむしろ海外の大学に行きたいという生徒が増えている。日本の大学が一般入試の英語を外部検定試験で代替したり、推薦枠を拡大したりする傾向が出てきたが、これによって課外活動に力を入れてきた高校生が日本と海外の大学を併願しやすくなるだろう。
日本の大学は、論文数は伸びず、世界の評価も上がっていない。例えば東京大は女子学生比率は2割に届かず、ダイバーシティー(多様性)でも後れを取っている。若者たちに、日本の大学の希望を伝えるのが難しくなっている。このままでは、優秀な人材がどんどん海外へ出て行ってしまう。
コロナから何を学んだか
新型コロナウイルスで世界の学生の学びの環境に影響が生じている。当社が運営する海外トップ大学進学塾「Route H(ルートH)」の卒業生でハーバードに在籍する11人のうち、現地に残っているのは2人。それ以外は、日本からオンラインで授業を受けたり休学したりしているのが実情だ。
世界のトップ大学は今後の入学者選考で、若者たちがコロナ禍で何を学んだのか、どのような問題意識で大学を目指すのかを問うだろう。同時期にひたすら志望大学の過去問を解いて過ごす日本の受験生と、入学前の時点で既に大きな差が開いている可能性がある。そのことを、日本の大学関係者は強く認識すべきだ。(談)
(藤井雅徳・ベネッセコーポレーション学校カンパニー大学社会人事業セクター長)
(本誌初出 ハーバードを目指す 「偏差値エリート」は歯が立たず 灘・開成・筑駒生でも狭き門=藤井雅徳 20201013)