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時価総額が一時インテルの約2倍に! 韓国サムスンをも尻目に世界の半導体市場で急拡大する「台湾TSMC」とはどういう企業なのか

    台湾対中の製造拠点(TSMC提供)
    台湾対中の製造拠点(TSMC提供)

     半導体世界トップのインテルの株価が低迷している。きっかけは、ボブ・スワンCEO(最高経営責任者)が7月23日(米国時間)、線幅7ナノメートル(ナノは10億分の1)プロセスの試作品の製造歩留まりが低迷しており、量産に移行できないために、ファウンドリー(半導体チップの製造受託業者)へ製造委託する「緊急時対応計画」を策定したことを発表したことだった。半導体の処理速度や消費電力などの性能を左右する回路パターンの微細化競争に後れを取った印象が高まり、インテルの株価は急落した。

     一方、製造委託先と見込まれるファウンドリー世界最大手の台湾TSMCの株価は上昇。時価総額は4247億ドルで、インテル(2140億ドル)の2倍近くに達した(9月18日現在)。

     韓国サムスン電子も微細化(5ナノメートル)ロジック半導体製造の歩留まり向上に苦戦しているようで、米クアルコムが一部の先端製品の製造委託先をサムスンからTSMCに切り替えたといううわさが業界内に広まっている。真実ならば、微細化競争で計画通り順調に微細化が進んでいるのはTSMCだけということになる。

    7~9月期は最高益へ

     TSMCの2020年4~6月期の連結売上高は、前年同期比28・9%増の3107億ニュー台湾(NT)ドル(約1兆1300億円)、最終利益が同81%増の1208億NTドル(約4400億円)と大幅に伸長した。5G(第5世代移動通信システム)対応スマートフォンの新機種発売や、サーバー需要の高まりが寄与した。

     また、米中貿易戦争に伴い、20年9月中旬以降、TSMCも中国華為技術(ファーウェイ)との取引を中止するが、ファーウェイはそれに向けて在庫の積み増しに動いており、業績を下支えしたようだ。さらに、8月の売り上げ速報を見ると、7~9月期は売上高・最終利益ともに過去最高益を更新する勢いだ。

     TSMCは売り上げの約15%を占めるファーウェイへの販売が途絶えても、AMD、エヌビディアはじめ米国の先端ファブレス(工場を持たない設計特化の半導体ベンダー)からの注文増で十分穴埋めできると見ている。このため、年間売上高については、4月時点の前年比15~18%増との予測を上方修正し、20%増とした。20年の設備投資計画もこれまでに発表している150億~160億ドルから160億~170億ドルへと上方修正した。TSMCに半導体製造装置を供給する日本の装置メーカーには大きな追い風となりそうだ。

     4~6月期のプロセス別の売上高比率は、7ナノメートル製品が36%を占めている。5ナノメートル製品が売り上げに寄与するのは7~9月期以降だ。

     台湾の市場動向調査会社トレンドフォースは、早々と20年7~9月期の世界ファウンドリー売上高ランキングを発表している(表1)。業界売上高の過半を占めるTSMCの7~9月売上高は前年同期比21%増。2位のサムスンが同4%増(システムLSI部門の社内向け売上高を含む)、3位のグローバルファウンドリーズ(GF)が同3%減という中、成長率の高さが際立っている。

     背景には他社に先駆けて量産提供した7ナノメートルプロセスの占める割合が上昇しており、高い稼働率を維持していることが挙げられる。

     有力顧客であるアップルがスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の次世代モデルのために、毎年、最先端のプロセッサーを必要として製造委託することが、微細化推進の原動力になっている。TSMCによると、7ナノメートルチップは18年4月に量産が始まり、現在世界の数十社に提供されており、同社の稼ぎ頭だ。当初は従来型の露光(リソグラフィー)装置を採用していたが、途中から極端紫外線を用いた、最先端の露光技術である「EUVリソグラフィー」を採用している。

     EUVリソグラフィーを多用した5ナノメートルプロセスについては、今春から次世代iPhone用プロセッサー「A14」およびファーウェイの次世代スマホ「メイト40」用プロセッサーの量産を開始し、この2品種で5ナノメートル生産ラインは埋まっているとされていた。しかし、9月中旬以降はファーウェイ向けの出荷ができなくなるので、他社からの製造委託を受け入れる余地が生まれている。

     業界関係者の話では、TSMCに5ナノメートルデバイスの製造委託を行っているか交渉中の顧客は7社8部門だと伝えている(表2)。

    問われる米国対応

     今後は米国政府の動きが、経営への重要要素となる。米国商務省は、今年5月15日、ファウンドリーが、米国製の設計ソフトウエアや製造装置を用いて製造した半導体を、ファーウェイグループへ納品することを事実上禁止した。仕掛かり中のウエハーについてまで取引禁止とするとファウンドリーの打撃が大きすぎるので、120日間の猶予を与えたが、9月中旬にはTSMCからファーウェイ宛ての出荷は完全にストップした。

     一方、TSMCは、5月15日、米国政府の要請に応じて米アリゾナ州に半導体工場の建設を行うと発表した。5ナノメートルプロセスを採用し、月産2万枚の生産能力を有する工場は24年稼働予定という。

     トランプ政権はかねてからの国家安全保証上の理由に加えて、対中貿易摩擦や新型コロナウイルスによる国際サプライチェーンの遮断回避のため、TSMCに対して米国内で国防上必要な最先端の半導体の受託生産に応じるよう再三にわたり要請していた。

     しかし、TSMCは米国における半導体製造はコスト高で、軍事用チップの製造だけでは採算が合わないため渋っていた。TSMCは、ファーウェイとのビジネス中止と米国進出をセットで米国政府から迫られた形で、中国に付くか米国に付くかの踏み絵を踏まされたようだ。

    (服部毅、服部コンサルティング・インターナショナル代表)

    (本誌初出 台湾TSMC 独り勝ちで設備投資増強 装置メーカーには商機=服部毅 20201006)

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