夜眠れないときにはどうすればよいのか?「不眠」を研究した哲学者の話(小川仁志)
Q 不眠に悩んでいます。睡眠薬以外に治す方法はありませんか?
A 眠れぬ夜はギフト。洞察や決断などの時間として活用してみては
最近仕事のことや新型コロナウイルス禍もあって不安になり、夜寝付けません。気がつけば明け方になっていることもしばしばで、不眠が続いています。睡眠薬に頼らず、改善する方法はありますか?(事務職・30代女性)
人は不安があると、なかなか眠ることができません。でも、朝は必ずやってくる。そうして眠れない日々を過ごすうちに、慢性的に疲れがたまってきて、メンタルヘルスを損なったりするのです。ですから、一番いいのは問題そのものを解決することだと思います。
そこで参考になるのが、不眠のスペシャリストともいうべき哲学者、ヒルティの思想です。彼はスイスの哲学者で、『眠られぬ夜のために』という本を出しているくらい、不眠について本格的に哲学した人物だと言っていいでしょう。
周り巻き込み解決策
まずヒルティは無理に寝るのではなく、むしろ眠れぬ夜を活用するよう説きます。というのも、眠れぬ夜に自分の生涯の決定的な洞察や決断を見いだした人がたくさんいるからです。だから、眠れぬ夜を「神の賜物(たまもの)」と見なして活用せよ、とさえ言うのです。
眠れないのには理由があるからです。ならば、むしろそれを人生の転換点ととらえて、積極的に活用すればいいのです。
具体的には人生を考える時、どっちの方向に進めばいいのか考える時間にせよと言います。ただしその際、自分自身に相談してはいけません。なぜなら迷える自分にいくら問いかけても、答えなど出るはずがないからです。できれば、自分を愛してくれる人たちと語るように説くのです。
自分を愛してくれる人は、最大限自分のことを思って答えてくれるでしょうから、必ず自分にとってプラスになるような、そして自分を決して傷つけることのないアドバイスをしてくれるに違いありません。しかし、たいてい眠れないのは深夜だと思います。いくら親しい間柄でも真夜中に電話をするのは、迷惑です。
そこで、自分を愛してくれている人に向けて、手紙を書いてみてはいかがでしょう。文章にすることで、自分が何に悩んでいるのか見直すことにもなりますし、おのずと相手の返事も聞こえてくるでしょうから。もし、そのような助けが得られない時に役立つのは、良い書物だと言います。直接的な答えにはならなくても、悩みから気持ちをそらすのには役立ちます。だから、枕元には常に愛読書を置いておく必要があるのです。ヒルティの本は、その役目を果たしてくれるはずです。
(本誌初出 不眠に悩んでいます。睡眠薬以外に治す方法はありませんか?/50 20201006)
(イラスト:いご昭二)
カール・ヒルティ(1833〜1909年)。スイスの哲学者。スイス陸軍の裁判長に昇り詰めた法学者でもある。三大幸福論にも数えられる『幸福論』の著者としても知られる。
【お勧めの本】
ヒルティ著『眠られぬ夜のために』(岩波文庫)
古典だが、エッセー形式で読みやすい
読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp
■人物略歴
小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。