教養・歴史小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

ポピュリズムは「他人の考えを認めないこと」から生まれる=小川仁志(哲学者)

日米首脳会談後の共同記者会見を終え握手を交わすトランプ米大統領(左)と安倍晋三首相=東京・元赤坂の迎賓館で2019年5月27日午後3時43分、梅村直承撮影
日米首脳会談後の共同記者会見を終え握手を交わすトランプ米大統領(左)と安倍晋三首相=東京・元赤坂の迎賓館で2019年5月27日午後3時43分、梅村直承撮影

 Q トランプ米大統領の軍を投入してでもデモを鎮圧する姿勢が不安です

 A 多様な考えに耳を傾けることが、ポピュリズムに対抗する手段

 白人警官の暴力による黒人男性の死亡をきっかけに、全米に抗議デモが広がっています。トランプ大統領は、軍を投入してでもデモを鎮圧しようとする強行な姿勢です。こんな人が米大統領に再選されるのは不安です。

(金融業・39歳男性)

 トランプ大統領の強引なやり方は相変わらずですよね。どうしてこうも自分の気に入らない人たちや移民を排除できるのか。はたして彼だけが特殊なのか。しかし実際には、ヨーロッパを中心に排除の主張を繰り返す人が次々とリーダーになっています。この事象はいわゆる「ポピュリズム」の問題をはらんでいます。

 ポピュリズムとは、カリスマ的な政治家が民衆の不満をうまく利用して、人気取り政治を行うことを言います。そこでドイツ出身の政治思想家ヤン=ヴェルナー・ミュラーは、他の考えや道徳を認めようとしない反多元主義にポピュリズムの本質を見ています。

政治への無関心さが危険

 本来民主主義は、少数者を含めさまざまな立場の人たちの声を政治に反映して国を一つにまとめる制度であるにもかかわらず、それが機能不全に陥っているということです。そのせいで、一部の人の声にしか耳を貸そうとしない政治家が、その一部の人たちの強い後押しで当選してしまうという現象が起こっているのです。そうすると、声を聴いてもらえなかった人たちは永遠に排除されてしまいます。恩恵を受ける人たちとそうでない人たち。かくして国家に深い分断が生じるわけです。

 では、どうするか。ポピュリズムの本質が反多元主義にあるなら、一人ひとりがもっと多様な声に耳を傾ける態度を持つことです。

 これは対岸の火事ではありません。日本でも経済が行き詰まると、それを誰かのせいにし出すことで、対立が生じかねません。

 そうならないためには、自分とは立場の違う人の考えを知るとか、そういう人たちと社会の問題について積極的に話してみる機会を見つけ、日ごろから自分の考えが凝り固まらないように努めてみてはいかがでしょうか。自分の考えを持てば、どんな人がトップに立っても自分の進む道を見失うことはないでしょう。考えを持ち、かつそれに固執せず、常に他者との対話を通してそれを吟味し続ける開かれた態度が大事です。

 日本では若者の投票率の低さに象徴されるように政治への無関心さや諦観が顕著ですが、実はその風潮こそがポピュリズムの温床になりそうな気がしてなりません……。

(イラスト:いご昭二)

(本誌初出 トランプ米大統領の軍を投入してでもデモを鎮圧する姿勢が不安です/36 2020・6・23)

イラスト:いご昭二
イラスト:いご昭二

 ヤン=ヴェルナー・ミュラー(1970年〜)。ドイツ出身の政治思想史家。米プリンストン大学教授。著書に『試される民主主義』(岩波書店)などがある。


【お勧めの本】

ヤン=ヴェルナー・ミュラー著『ポピュリズムとは何か』(岩波書店)

ミュラーのポピュリズムについての考えがよくわかる


 読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp


 ■人物略歴

おがわ・ひとし

 1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

8月23日号(8月16日発売)

電力危機に勝つ企業12 原発、自由化、再エネの死角 オイルショックを思い出せ ■荒木 涼子/和田 肇15 電力逼迫を乗り越える 脱炭素化が促す経済成長 ■編集部16 風力 陸上は建て替え増える 洋上は落札基準を修正 ■土守 豪18 太陽光 注目のPPAモデル 再エネは新ビジネス時代へ ■本橋 恵一2 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事