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教養・歴史 小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

かわり映えのしない退屈な日常こそ「最高の幸福」であるのはなぜか 哲学者はこう考える(小川仁志)

 Q テレワークで毎日代わり映えしない生活に嫌気がさします

 A よいことも悪いことも含めて何も起こらない、その平凡こそ幸運なのです

 テレワークでずっと家にいるせいか、毎日代わり映えしない日常が嫌になってきます。お金を使って何かをするほどの経済的余裕はなく、外に出て何かをする機会も減っています。不幸な時代に生きているとあきらめるべきなのでしょうか。(事務職・20代女性)

 たしかに刺激のない日々が続きますね。自分が元気であればあるほど、刺激を求めるのに、それを実現することができないのが今の状況です。でも、よく考えてみると、元気なのは素晴らしいことです。

 私たちは、とかく平凡な日常のよさを忘れがちなのです。アメリカの哲学者エリック・ホッファーは、よいことも悪いことも含めて、まったく何も起こらないのは非常に運がいいと言っています。彼はある日突然腕に痛みを感じて、そのことに気づいたそうです。

 病気やけがをして初めて、平凡だった日常に感謝するということはありますが、普通は多少の腕の痛みではそこまで思うことはないでしょう。だから私たちは毎日がつまらないと、愚痴をこぼしてしまうのです。

 でも、ホッファーは苦労人なので、ちょっとしたことで平凡のありがたさを思い出すのだと思います。彼は7歳で失明し、18歳で天涯孤独となり、28歳で自殺未遂をし、その後、日雇い労働者として放浪生活を送りながら、独学で偉大な哲学者になった人物です。

平凡に感謝する儀式を

 だからこそ、平凡な日々のありがたさに敏感だったのでしょう。現にホッファーの日常はとても平凡なものでした。「1日2回のおいしい食事、タバコ、私の関心をひく本、少々の著述を毎日。これが、私にとっては生活のすべてである」。彼はそう言っています。

 人生はいつ何が起こるかわかりません。ホッファーほどではないにしても、私たちだっていつなんどき不幸に見舞われるかわからないのです。そう思うと、刺激のない日々も幸せに感じられるのではないでしょうか。

 大切なのは、きっかけづくりだと思います。たとえば、忘れてしまいがちな平凡な日々のありがたさに気づくための儀式を日常に取り入れるようにしてはどうでしょう。

 誰しも少しは苦しかった時期があると思います。そのころの写真を毎日1回見るようにするとか、あるいはそういう経験がなければ、逆に苦しい状況を想定してみるとか。これはいざ自分に不幸が襲い掛かった時の心の準備にもなると思います。

(イラスト:いご昭二)

(本誌初出 テレワークで毎日代わり映えしない生活に嫌気がさします/51 20201013)


エリック・ホッファー(1902~1983年)。アメリカの哲学者。独学で哲学を学んだ。港湾労働をしながら思索を続けたため沖仲士の哲学者とも呼ばれる。著書に『波止場日記』など。


【お勧めの本】

小川仁志著『エリック・ホッファー 自分を愛する100の言葉』(PHP研究所)。ホッファーの名言に解説を加えた唯一の本


読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp


 ■人物略歴

おがわ・ひとし

 1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。

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