映画も大ヒット!『鬼滅の刃』で集英社が絶好調の一方、マンガを持たない出版社に「雑誌という不良債権」が重くのしかかっている(永江朗)
コロナ禍は出版業界に明と暗の両方をもたらした。大手・中堅出版社でも、いわゆる“巣ごもり需要”によって売り上げを伸ばした会社もあれば、雑誌の発売中止や広告収入の減少で打撃を受ける会社もある。その典型例を集英社(社員数719人)と光文社(同297人)の決算に見て取ることができる。
集英社の第79期(2019年6月~20年5月)決算は、売上高が1529億円で、前年比14・7%の増加。経常利益は300億円、当期純利益は200億円超。第78期も前年を大幅に超えていたが、第79期は経常利益も当期純利益も2倍以上の伸びとなった。
売り上げ増の理由はコミックス(新書版のマンガ単行本)の好調である。もともと『ONE PIECE(ワンピース)』など確実に売れるタイトルを多数抱えているところに、『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』のメガヒットが加わった。『鬼滅の刃』は各巻が一時期大手書店のランキング上位を独占する状態が続き、小説版ほかさまざまな関連書籍・ムックが刊行されるなど社会現象にもなった。
デジタルも前年比40・5%と大きく伸ばしたが、これもマンガの好調によるところが大きい。
一方、決算期間が同じ光文社の第76期は売上高が約185億円で前年比9%の減少。主力とする女性ファッション誌がコロナ禍により発売中止、広告収入も減ったのが痛かった。経常損失が約14億円。
明暗を分けたのはマンガというコンテンツを持っているか否かである。マンガがあれば、紙版のコミックスやデジタル版が売れ、さらには版権ビジネスで稼ぐことができる。集英社でも紙の雑誌は前年比9・8%減となっており、縮小の比率は光文社の8・1%減よりも悪い。コロナ禍がなかったとしても、紙の雑誌の市場縮小は続くだろう。マンガを持たない雑誌出版社は生き残り策を考えなければならない。
集英社はこの9月下旬から女性ファッション誌や男性誌も含めた全20誌に『鬼滅の刃』の付録をつける大キャンペーンを開始する。売れるものは徹底的に売り伸ばすという攻めの姿勢である(本文中のデータはすべて『新文化』9月3日号より)。
(本誌初出 「マンガ」持つ強み 集英社の利益倍増=永江朗 20201006)
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。