特別定額給付金10万円という「麻薬」の効果は今年度限りであるワケ……リストラ・失業による所得減少が来年以降の日本経済を直撃する
緊急事態宣言下で急激な落ち込みを記録した個人消費は、6月から持ち直している。緊急事態宣言の解除に伴うペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、1人当たり10万円の特別定額給付金の支給が消費を押し上げた。
総務省統計局の「家計調査」によれば、勤労者世帯の可処分所得は6月が前年比19%、7月が同12%の大幅増加となった。勤め先収入などの経常収入が低迷する一方、特別定額給付金の支給によって特別収入が急増したためである。特別収入の実額(1世帯当たり)は6月が15・5万円(前年差14・7万円)、7月が6・6万円(前年差5・8万円)であった(図1)。
総務省によると、給付総額12・7兆円のうち7月末までに12・3兆円(96・8%)が支給された。8月以降は特別定額給付金の支給がほとんどなくなるため、景気悪化に伴う勤め先収入の減少が可処分所得の減少に直結する形となるだろう。
経済活動の急激な落ち込みを受け、改善が続いていた雇用情勢は悪化している。労働市場の需給関係を反映する有効求人倍率は、2019年4月の1・63倍をピークに20年7月には1・08倍まで低下し、2%台前半の推移が続いていた失業率は2%台後半まで上昇した。
現時点では失業率の上昇は限定的だが、その一因は、職を失った後に求職活動を行わなかったために非労働力人口となった者が増えたことである。20年7月の雇用者数は前年比1・5%減とリーマン・ショック時並みの減少率となっている。
また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた休業、営業時間短縮、業績悪化の影響で、1人当たり賃金も残業代、ボーナスを中心に落ち込んでいる。国内総生産(GDP)統計の雇用者報酬は13年度から増加を続けてきたが、20年度は前年比3・4%減と8年ぶりに減少することが予想される。
可処分所得は大きく変動
一方、特別定額給付金の支給が家計の可処分所得を押し上げる。特別定額給付金の支給総額は12・7兆円で、筆者が予想する20年度の雇用者報酬の減少額9・9兆円を上回る。このため、20年度の家計の可処分所得は前年比1・6%の増加となり、消費の落ち込みを緩和する役割を果たすだろう。
ただし、特別定額給付金による押し上げは一時的で、21年度の可処分所得はその反動で大きく落ち込むことが避けられない(図2)。長い目でみれば、雇用所得環境の悪化が消費の回復を遅らせる要因となる可能性が高い。
(斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査部長)
(本誌初出 10万円給付の押し上げ効果は一時的=斎藤太郎 20201006)