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現金給付よりも財政拡大よりもベーシックインカムよりも「ベーシックジョブ」が優れているのはなぜか

雇用契約の取り消しを通告するメールを印刷した文面を見つめる男性=仙台市青葉区で2020年4月27日午後2時48分、滝沢一誠撮影
雇用契約の取り消しを通告するメールを印刷した文面を見つめる男性=仙台市青葉区で2020年4月27日午後2時48分、滝沢一誠撮影

前回の記事でご説明したベーシックジョブは、今までの財政出動とは全く異なる性質を持った仕組みです。

具体的には次のような政策体系で構成されています。

1. 働く意思と能力のある人全てに雇用の機会が与えられる。

2. 政府は一定の賃金(例えば都道府県ごとの最低賃金)と社会保険を保障する。財源は税金を使わず、全て財政赤字で賄う。

3. 仕事は地方公共団体が提供することもあれば、民間企業や各種法人が提供することもある。

4. 公的性格の強い医療関係、介護、福祉、保育、教育に関しては、キャリアアップのための資格取得の機会、例えば専門学校や高等教育の機会も保障する。学費を支払うのではなく、生活を保障されながら学ことができる。

5. 4の分野での継続的な賃金上昇(キャリアラダー)の仕組みを整備する。

1〜3が日本版のJGP、これに4・5を加えたパッケージが私の提唱している「ベーシックジョブ」です。この新しい仕組みをより詳しく見ていくために、「仕事」と「生産」の2つの点に絞ってベーシックジョブの特徴について考えていきましょう。

個人の自由を尊重した雇用の提供

政府が雇用を作り出すというと、多くの人は旧ソ連など社会主義国家を思いだされるのではないでしょうか。

ベーシックジョブに「政府が雇用を作り出す」という側面があることは、否定できません。

しかし、旧ソ連や社会主義国家が行っていた計画経済と、ベーシックジョブの決定的な違いがあります。

それは、「必要性」と「計画性」です。

そもそも、社会主義国家における「雇用を作り出す」というものは、結局のところ、5カ年計画・10カ年計画といった形での、大きな計画に基づいたスケジュールでした。このスケジュールにおいて、人は大きな仕組みの歯車でしかないということになります。

一方で、自由主義国家が社会主義国家との戦いに勝つことができた最大の要因は、個人の自由を尊重したためと考えられています。

ベーシックジョブは個人の自由を尊重した、社会主義の仕組みとは全く異なった国家による雇用政策です。

政府は仕事の入り口を一定の賃金・財政赤字で提供し、必要に応じた分野ごとにキャリアアップと賃金アップの仕組みを準備しておきます。

キャリアアップの道筋は民間企業も提供してくれます。そして、どれを選択するのかについては個人の自由が尊重されるというわけです。

ベーシックジョブと耳にすると、「ベーシック」とあるため、「基本的な仕事」ととらえてしまう人が多いかもしれません。

例えば、電気やガス・水道といった社会インフラに従事する・コンビニエンスストアなどの地域の経済に絶対に必要な仕事に対する労働力を公的資金で確保する、とイメージされるのではないかと思います。

こうしたイメージから、「正社員・派遣社員のさらに下の階層を作ろうとしているだけではないか」「労働力の安売りに拍車がかかる」という反対意見も出てくるかも知れません。

しかし、ベーシックジョブはキャリアの入り口とその後のキャリアアップの両方を保障する仕組みですので、このような懸念は当たらないように設計されています。

「ベーシックジョブ」としてどういう仕事が考えられるのか

ベーシックジョブで提供される仕事はどのようなものがあるでしょうか。

原則的には、それぞれの地域で必要な仕事であればどのようなものであっても良いのです。

例えば、過疎化が進む地域において人手不足で困っているような分野が真っ先に考えられます。

医療・介護・福祉・保育など、こういった仕事がとても大きな価値を持っているのは間違いありません。

農林水産業や地域で重要な役割を果たしている商店やものづくりの中小企業も大切です。当然これは、ベーシックジョブの支援対象となり得ます。

文化財の補修などの希少性の高い技術職を支援することは日本文化の継承の問題です。郷土の歴史研究の仕事を支援することで、地方創生のためのコンテンツ作りに貢献できるかもしれません。

JGPの提唱者であるオーストラリアのビル・ミッチェル氏などはミュージシャンやサーファーなどを上げています。

文化的活動は豊かさに直結しますし、サーファーが多いことは海岸の安全性を高めます。

いかにもオーストラリアらしい提案だなと思いますが、それぞれの地域に必要な仕事を考えていけばいいわけです。

日本ではすでに地域おこし協力隊など、地域に必要な人を雇用するシステムが存在します。地域おこし協力隊は期限のある雇用ですが、これを継続して行うことができれば日本版JGPになると思います。

このように、ベーシックジョブの範囲は無限大ともいえます。ベーシックジョブは、社会的に必要と認識される仕事への支援を拡充しようという視点を強く持っています。その仕事に従事する人たちに対して、最大限の支援とキャリアラダーを提供することが、ベーシックジョブの最大の特徴といえるかもしれません。

ベーシックジョブは生産性を低下させない!

ベーシックジョブの大きな利点として、今まで有効に活用できていなかった労働力資源を有効活用できるという点があげられます。

単なる生活保障の場合、国民の生活を保障したことで彼らの労働意欲を削ぐ可能性もあります。

国民皆保険や生活保護をはじめとして我が国にも様々な社会保障制度があります。

ただ、社会保障制度はともすると民間経済を減らしてしまい、生産力そのものに悪影響を与えかねないという批判があり、専門家の間でも賛否がわかれます。

確かに、「大きな政府」「小さな政府」のどちらが正しいかということは一概には言えません。

ただ、ベーシックジョブは現在働けていない人々に仕事を提供する政策なので、仕事に携わる人を減らすどころか、むしろ増やします。

結果、プロダクトやサービスをより提供する仕組みとなりうるのです。

国家の生産力は、人々が仕事を通じて、製品・プロダクト・サービスを世の中に送り出すことで成り立つものです。

ゆえに人々の就職を支援し、個々人の生産力を高めていくことは、結果的に国を豊かにします。

国が豊かになれば、今よりもさらに多くの人々の生活を支えることができます。

ベーシックジョブの好循環をもたらすポテンシャル

ベーシックジョブは、景気の下支えだけとどまりません。

ベーシックジョブによる雇用創出は、行政やNPO、中小企業の雇用を膨らませることになります。

賃金上昇の機会も増え、それは消費水準の向上にもつながります。

消費水準の向上は、そのまま民間企業の業績に直結しますので、結果として力強い経済を作り上げることになるのです。

また、ベーシックジョブには、単純な仕事だけでなく、スキルが必要な仕事も含まれます。

個々人のスキルアップ・キャリアアップが賃金の上昇につながれば、経済全体としても生産性向上につながり、長期的な経済成長が保障されます。

ベーシックジョブによって個々人のスキルアップ・キャリアアップが可能になれば、民間企業にとっても人材確保における大きなメリットとなります。

またその中で高いスキルを持つ人材の奪い合いの状況になれば、民間企業はより人材育成や福利厚生、賃金アップに積極的に取り組むでしょう。

こうした流れは、いわゆるトリクル・ダウンとは異なる動きで、いわば「下からの経済成長」にあたるため、「湧き水効果(ファウンテン効果)」と呼ばれています。ベーシックジョブはまさに「湧き水効果」を大いに期待できる経済政策なのです。

ベーシックジョブは単なる失業対策ではない

ベーシックジョブの重要な考え方に「単なる失業対策にとどまらない仕組み」というものがあります。

どれだけ優秀な労働者であっても、景気の変動によって失業してしまうことがあり得ます。ただ、そうした時のための保険を用意することだけがベーシックジョブの目的ではありません。

どのような仕事でも、その仕事を担う人のキャリアに「将来に向けたステップ」を用意しなければなりません。

これを、「キャリアラダー」といいますが、誰しもが一歩一歩着実により高いところを目指して努力していける仕組みが必要です。

仕事を通じて個々人の生活や、その人に合った豊かさを追求できることは、まさに基本的人権そのものといえるでしょう。

その仕事を追求することでステップアップができるから、その人ごとの豊かさを追求できるわけです。それを可能にするのが「キャリアラダー」です。

ですので、ベーシックジョブにおいてはこの「キャリアラダー」をきちんと用意する必要があります。

日本版JGPの担い手は地方公共団体や地域の中小企業、医療・介護・福祉・教育といった分野ですが、それぞれでキャリアラダーを整備する必要があります。

民間企業でしたらスキルアップして最低賃金以上で雇われる人材になることでしょう。資格の必要な仕事でしたら、資格を取得することでしょう。

もちろん、あらゆる人が「キャリアラダー」の一番上まで行けるとは限りません。ただ、「将来」まで提供して初めてきちんとした「仕事」を提供したことになるともいえます。本来の理念に即したベーシックジョブ政策とはこうした方向を目指すべきです。「キャリアラダー」については具体的に、かつ創造性豊かに議論していく必要があります。

ベーシックジョブはマクロ経済にどう影響するのか

ベーシックジョブの予算規模・財源と、経済的な影響について考えてみましょう。

好景気の時は、ベーシックジョブの賃金より民間企業の賃金のほうが高くなります。そのため景気が良ければベーシックジョブに参加する人数は減ります。つまり、予算が縮小していくことになるでしょう。

一方で、不景気の時は、ベーシックジョブを活用する人が増えるでしょう。ここではベーシックジョブの予算は増額されることになります。

すると、予算の拡張が不可欠です。

これは、「好景気の時は財政出動が減り、不景気の時は財政出動が増える」という形で、経済の安定化(ビルトインスタビライザー)として機能します。

ベーシックジョブにおいても公平性や公共性の担保は必要ですが、誰かが納税した税金を原資とするわけではなく、財政赤字による支出ですので、「ずるい」とか「無駄だ」という国民感情とは無縁であることは強調しておくべきです。

問題が発生するとしたら好景気になりすぎて輸入ばかりが拡大し、外貨準備が枯渇するような局面ですが、日本では当分その心配をする必要はありません。

いまこそ「ベーシックジョブ」の導入を検討すべき

ベーシックジョブは、人々を尊重しながら、人も国家も成長させていく仕組みです。

私はベーシックインカムや減税といった現在提案されている政策よりも、「豊かな生活」に直結しうる政策だと考えています。

景気縮小期には増加、景気拡大期には減少するという「ビルトインスタビライザー機能」を備えており、税制の制約にも縛られないことも再度強調しておきます。

「with/afterコロナ」の経済政策として、何よりも政府の経済政策の新しい形としてのベーシックジョブを私は提案していきたいと思います。

今枝宗一郎(いまえだ・そういちろう)

衆議院議員(自由民主党、3期目)。医師。

名古屋大学医学部卒業後、医師として、へき地医療や救急医療、在宅医療に従事。大前研一氏創設の「一新塾」を経て、自民党の公募に応募、第46回衆院選に最年少(28歳)で当選。2017年には史上最年少の33歳で財務政務官に就任。新型コロナウイルス対策では自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部幹事長を務める。

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