バブル崩壊とは「米国のMMT的政策の失敗」ということを日本人は忘れてはならない=木内登英(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)
「政府は債務残高の増加を無理に抑える必要はない」──。米国でそんな主張がにわかに高まり、賛否入り乱れた論争を引き起こしている。その主張を支える理論が、MMT(Modern Monetary Theory)だ。日本では「現代金融論」、あるいは「新表券主義」と呼ばれる。
そのきっかけとなったのは、3月1日に米国政府の債務上限の停止措置が失効したことだ。上限が引き上げられなければ、9月ごろにも米国債はデフォルト(債務不履行)してしまう。
MMT提唱者の一人であるニューヨーク州立大学のケルトン教授は、「欧州債務危機は各国が単一通貨ユーロを採用したことが元凶であり、ドルという独自通貨を持つ米国には当てはまらない」としている。また、同氏は「政府債務の増加が供給不足からインフレを引き起こすような場合には問題だが、経済成長と雇用の増加が続いている限りは問題ない」と主張する。
政府がデフォルトに陥るリスクについて、ユーロ圏諸国と米国との間に大きな差があることは確かだ。自国通貨を持つ中央銀行は、政府が信用力の低下で国債発行ができない状況に追い込まれれば、民間銀行に無制限の流動性供給を行うことで銀行に新発国債を買い入れさせ、それを中央銀行が買い取ることでデフォルトを回避できる。
これは財政ファイナンスに近いが、危機時には許容されると広く考えられている。ただし、独自の通貨を持たず、またECB(欧州中央銀行)の指揮下にあるギリシャ中央銀行などは、それができない。
しかし、政府のデフォルトが生じにくい米国で、野放図な財政赤字の拡大、政府債務の増加が何の問題も生まない、ということではないはずだ。トランプ政権の財政拡張策によって双子の赤字、つまり財政赤字と経常赤字の同時拡大がすでに進んでいる。財政赤字のさらなる拡大は、財務省証券市場の需給悪化から利回り上昇を生み、経常赤字の拡大はドルの信認を低下させる。
日本のバブルの原因に
その結果、悪い金利上昇とドル安が相乗的に進み、経済・金融に深刻な打撃を与えるリスクがある。米国は1980年代、過大な財政拡張策が双子の赤字問題を深刻化させた。
そこで、ドル暴落の回避のために日本銀行が強いられた低金利の維持が、日本のバブルとバブル崩壊につながった。いわば日本が米国の失策の被害者になった、という経緯を日本人は決して忘れてはならない。
また、今後、MMTが財政拡張策を支える理論として日本でも安易に利用されることがないよう、しっかりと目を光らせておく必要があるだろう。
(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)
(本誌初出 Q MMTって何? A危うい政府債務容認=木内登英 2019・4・16)