「築年数が古いがおしゃれ」近年人気が高まっている「リノベーション物件」でトラブルが多発している驚きの理由
リノベーションとは一般に、築年数が古いマンション室内の壁紙やフローリングを大規模改修し、新築同様に魅力的な空間へ再生すること。近年、この「リノベーション済み」マンションでトラブルが増加中だ。
1部屋単位のリノベーションは、新築や1棟を丸ごと改修するケースと異なり、役所などに工事の届け出をする義務がなく、検査もない。工事の質を担保するものは不動産会社や工事業者が行う検査となるが、それもなければ職人任せとなる。
そもそもリノベーション工事には資格が必ずしも必要ではなく、公的検査もないため、未経験でも参入しやすい業界だ。マンション建築の知識や経験の浅い不動産会社が施主となり、工事会社任せの設計や施工になっているケースも多く見られ、この分野はまさに玉石混交な状況と言っていいだろう。さくら事務所が直面した現場トラブルの実例を紹介する。
一つ目は防火対策が不十分な事例だ。火災発生時、燃え広がらないよう法律や条例でキッチンの排気ダクトには不燃素材の使用を規定している。しかし、届け出などが不要なため第三者の目が入らず、燃えやすい素材で施工されていることが珍しくない。ダクトはリノベーション後、外側から確認できないため非常に危険。法的知識に乏しい工事業者に当たった場合に起こりうる問題だ。
ガスコンロの近くに燃えやすい建材や電源がある事例(写真・上)もある。コンロの周りは本来、もしも燃え移った場合でも延焼させないよう壁には「不燃材」を張り付け、コンロの近くに「コンセント類」を設置してはならない。しかし、コンロの周辺が燃えやすい木製パネルなどの素材で仕上げられていたり、この例のようにコンロとコンセントが近くにあったりするケースが後を絶たない。
最後に紹介するのは、浴槽に水をため排水口の栓を抜いたところ、水が一切流れず水位が下がらない事例(写真・下)だ。このまま住み始めていたら、入居翌日から浴槽の水を交換できない事態になっていた。原因は排水管にあったため、住戸内の床の一部を解体する大掛かりな工事が行われた。売り主や工事会社は工事終了後、浴室で水を流す検査を行っておらず、気が付かなかったらしい。
専門家の目を
「工事の手を抜こう」「品質が悪くてもいい」と開き直って不具合を生み出す設計者や工事会社は、おそらくいない。しかし、トラブルが起きるリノベーション済み中古マンションの多くは、知識や経験不足によって問題点すら気付かれず生み出されている実情がある。購入予定者がこうしたトラブルを未然に防ぐには、第三者の専門家に適切なタイミングでチェックしてもらう必要があるだろう。
(本誌初出 リノベーション住戸の落とし穴/64 20201006)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立