「都心から地方への移住が進む」「リモートワークで空室率が高まる」アフターコロナに起きるといわれる現象が現実にはまったく起きていない理由
新型コロナウイルス感染拡大による4月の緊急事態宣言以降、不動産市場に大激変が起きた。インバウンド需要を見込んでいたホテルや飲食店などの商業系は、自粛ムードが響き閑古鳥が鳴く日々。2012年の自民党への政権交代以降、長らく続いてきた不動産市場の上昇基調にブレーキがかかり、各種メディアからは「バブル崩壊か」との声も聞かれた。
しかし結論を言えば、バブル崩壊は一切起こっていない。理由は簡潔で、今回は日米欧が同時に大規模な金融緩和を実施し、金融システムが崩壊することを阻止したためだ。今回は「平成バブル」や08年のリーマン・ショック前のバブル、またその崩壊と異なる。一時1万6000円台まで下落した日経平均株価も2万3000円台(9月23日現在)と、すっかりコロナ前の水準に戻っている。
ホテル業界への投資はしばらく冷え込むことになりそうだが、心配ない。都市部のホテル用地は新築マンション用地と競合し、昨今は取得単価の高いホテルが圧勝してきた。新築マンションは年々発売戸数を減らしていたが、ホテルが撤退してもマンション用地にとって代わるだけである。
東京・銀座に象徴される商業地でも、出店している店舗が仮に撤退しても、そのニーズは高いため、多少の賃料下げはあれどすぐに埋まるだろう。「コロナで都心居住が見直され、郊外や地方への移住が増える」「リモートワーク(在宅勤務)でオフィスの空室率が高まる」といった言説も、現実のものとはなっていない。
空室率ほぼ変化なし
一時半減した新築・中古一戸建て市場もすっかり息を吹き返し、順調に取引がなされ、在庫を減らしている。むしろ、緊急事態宣言中のマイナスを補って余りある勢いだ。また、8月の首都圏の中古マンション成約件数は前年比18・2%増、平均価格は同5・3%増と絶好調。とりわけ都心3区(千代田、中央、港の3区)の中古マンションの1平方メートル当たりの成約単価は125・75万円と過去最高を更新し、在庫件数も減少した(図)。不動産経済研究所によると、8月新築マンションの発売戸数は前年同月比8・2%と減少したが、都区部以外は大幅増、契約率も68・5%とまずまずである。
一部企業がオフィス床を減少させるとのアナウンスも、限りなく限定的とみている。というのも、在宅勤務で生産性が低下した企業も多く、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つには、一定の床面積が必要だからだ。何より多くのオフィス賃貸契約は3~5年といった長期契約のものが多く、期間中に解約すると違約金が発生するため、解約の動きは鈍い。渋谷区のオフィス空室率がやや高まったのは、機動的に動けるIT系企業が集積していたためだ。オフィス市場の好不調を占う5%には程遠く、大手町・丸の内や虎ノ門・新宿といったオフィス街にはほとんど変化がみられない。
このままコロナが一定の終息をみれば、市場には過去最大規模の行き場のないマネーが残る。しかも超低金利といったおまけつきだ。その行き先に注目しよう。
(本誌初出 コロナ移住、本社移転は限定的/65 20201013)
■人物略歴
長嶋修 ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立