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米国による「TikTok」や「ファーウェイ」禁止に一般の中国人が無関心な理由……「WeChat」をやられたら態度が激変する?

トランプ米大統領はティックトックの利用を制限する大統領令に署名。中国政府・産業界は強く警戒(Bloomberg)
トランプ米大統領はティックトックの利用を制限する大統領令に署名。中国政府・産業界は強く警戒(Bloomberg)

「抖音(ドウイン)(ティックトック)は必要性が低く、ファーウェイは代わりがきくが、微信(ウェイシン)(ウィーチャット)はきかない」。米国の制裁対象として注目される中国の三つの企業・サービスを、ある北京の若者はこう形容した。

 中国本土では「抖音」として運営される人気動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」はあくまで娯楽で、通信機器大手ファーウェイは他に数多くのスマートフォンメーカーがあり代替可能。一方、対話アプリのウィーチャットは最大シェアのSNSと決済、その他多くの機能を持つスーパーアプリで、中国では欠かせない生活インフラだから、と言う。

一般人は無関心も

 評価は違えども、いずれも中国で生まれ、中国人の生活になじんだ企業・サービスだ。にもかかわらず、米国の制裁に対する一般の中国人の反応は概して冷静、時には無関心でさえある。一番の理由は、今のところ中国国内のユーザーが直接的な影響を受けていないからだろう。今後、例えばウィーチャットが米国で使えなくなり、両国ユーザー間(中国人同士のケースが多いだろう)のコミュニケーションや送金に支障が生じるといった「実害」が出れば、状況が変わる可能性もある。

 一方、中国政府や産業界の危機感は強い。米国が「クリーンネットワーク計画」の名の下に、中国のデジタル企業のグローバル化を阻もうとすることへの警戒だ。同計画は8月にポンペオ米国務長官が発表。ファーウェイやテンセント(ウィーチャットの運営企業)、アリババなどを挙げ、米国や同盟国のネットワークから排除する必要性を訴えた。中国のあるシンクタンクは「(同計画は)米国がデジタル覇権を実現するためのツールボックス」と評した。

世界最大級の家電IT見本市「CES」に出展した中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)のブース=米ネバダ州ラスベガスで2020年1月、中井正裕撮影
世界最大級の家電IT見本市「CES」に出展した中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)のブース=米ネバダ州ラスベガスで2020年1月、中井正裕撮影

 同計画に対し、王毅外相は「米国自身が汚れている」などと非難し、9月8日に中国主導のデータ管理基準の構想を発表。「企業は製品にバックドアを設置するなどして不法にユーザーデータを取得してはならない」といった、米国の対中批判を逆手に取った内容を盛り込んだ。中国商務部も9月19日、米国が禁輸措置を取る「エンティティーリスト」に対抗して、国家の安全や中国企業の利益を損ねる「信頼できない外国企業」をリスト化し、輸出入や投資を制限する新制度を公表。米国のリストに従って中国企業への製品供給を止めたり、クリーンネットワーク計画に賛同した外国企業は、この「中国版エンティティーリスト」に掲載される可能性がある。ただ、実際には多方面への影響を検討しながら慎重に運用されるだろう。

 中国政府は11月の米大統領選の結果にかかわらず、米国との「デジタル覇権」争いに持久戦で臨む構えだ。国内の対米世論の急進化を防ぎつつ、かつ、弱腰と見られないように適宜反撃しながら、対外的には中国のデジタル企業を排除しないよう日本を含む米国寄りの国々を説得し、それ以外の国々との対話を地道に続けていく。一方、中国のデジタル企業は特に海外事業で中国色を薄め、効率的に市場開拓を図ろうと外資との協力を重視する姿勢を強めている。こうした中、日本企業は中国のデジタル企業との協力に際し「米国か中国か」の二択ではない冷静かつ柔軟な対応が求められている。

(岸田英明・三井物産〈中国〉有限公司チーフアナリスト)

(本誌初出 持久戦の米中デジタル覇権 脱“二択”迫られる日本企業=岸田英明 20201013)

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