経済・企業挑戦者2020

「驚くほどクオリティが高い」障害者のアート作品を取り入れたファッションアイテムが「障害者への偏見」を変える

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 重度の知的障害のある作家たちのアート作品を商品化。福祉を軸に、新たな文化を創り出そうとしている。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)

 全国の障害者施設と提携し、アート活動に取り組む重度の知的障害のある人たちの作品の中から芸術的に優れたものを見つけ出し、施設とライセンス事業契約を結んでいます。作品が商品化されたら、売上高の一定割合が作家に支払われる仕組みです。

 主力事業は、自社ブランド「HERALBONY」における商品開発と販売です。アート作品を図柄にしたネクタイやスカーフ、トートバッグやうちわなどを製作し、主にインターネットで販売しています。これまでに約50種を商品化し、売れる売れないにかかわらず料金の3%を作家に支払ってきました。

 作品はカメラで撮影し、画像データとして保存しています。14施設の100人の作家による約2000点の作品を蓄積しています。障害の特性から、数字や文字といった一つのモチーフにこだわり、繰り返し繰り返し描き続けたり、健常者には想像もつかないような色同士を組み合わせて塗り重ねたり。「普通じゃない」ことが、個性になっていると感じます。

 力を入れているのは、企業との提携です。作品をクラフトビールのラベルにしてもらったり、ホテルのインテリアの壁紙として利用してもらったり。企業から入る使用料や事業売り上げを、作家と分け合っています。建設現場を囲う白い壁(仮囲い)に障害者のアート作品を展示する「全日本仮囲いアートミュージアム」では、東京・大手町のみずほ銀行本店ビルの建て替えなど、10カ所以上で実施。当社がアートの印刷・施工を手がけ、売り上げの10%を作家に還元しています。

アート作品を図柄にしたネクタイ
アート作品を図柄にしたネクタイ

原点は自閉症の兄の存在

 私と副社長の松田文登は双子の兄弟。岩手県の実家に4歳上の自閉症の兄がいます。兄は、物や場所に強烈なこだわりがあったり、パニックになると突然大声を発したりもします。子どもの頃からいつも一緒に遊んでいましたが、外出先ではいつも大人たちの奇異な視線が気になりました。

 東北芸術工科大学の企画構想学科に進んで放送作家の小山薫堂氏の下で学び、卒業後、小山氏が社長を務める企画会社「オレンジ・アンド・パートナーズ」に就職しました。実はその時点で既に、30歳までに障害者への見方を変えるような仕事に転じたいという思いを抱いていました。

 転機は、知的や精神障害の人たちのアート作品を展示している岩手県花巻市の「るんびにい美術館」との出会いです。作品の芸術レベルの高さに衝撃を受け、商品として世に出せると確信しました。銀座のネクタイの老舗「銀座田屋」の協力で、初めて商品化したネクタイを年間150本売り上げました。

 その後、鳴かず飛ばずの日々が続きましたが、18年12月、パナソニックが銀座にリニューアルオープンした研究開発拠点のオフィスの壁紙にアート作品が採用されたのをきっかけに、企業との協業が広がりました。

 現在、インターネットの販売サイトの売り上げは月100万〜200万円。障害や福祉に理解のある人が主な購買層です。純粋にデザインにほれ込んでお金を払ってくれる人を、もっと増やしたい。アート活動だけで十分食べていける作家を何人も発掘するのが夢です。(挑戦者2020)

(本誌初出 松田崇弥 ヘラルボニー代表取締役社長 障害者アートをビジネスに 20201013)


企業概要

事業内容:知的障害のある作家のマネジメント及びライセンス事業・商品開発

本社所在地:岩手県花巻市

設立:2018年7月

資本金:非公開

従業員数:8人


 ■人物略歴

まつだ・たかや

 1991年岩手県出身。東北芸術工科大学企画構想学科で、くまモンの生みの親である小山薫堂氏に師事。卒業後、同氏が率いる企画会社「オレンジ・アンド・パートナーズ」のプランナーを経て独立。18年にヘラルボニー設立、代表取締役社長に就任。

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