生駒龍史 Clear代表 最高級の日本酒で世界酔わせる
各地の酒蔵と高価格帯の日本酒を共同開発し、自社サイトで販売。最高峰の日本酒を世界に広める意気込みだ。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=岡田英・編集部)
世界中のお酒を調べ、日本全国の酒蔵を訪ね歩く中で、気付いたんです。日本酒は安すぎる、という「問題」に。
アルコール離れが加速する中、以前のような薄利多売が通用しなくなっています。酒蔵の数は減り続け、1カ月当たり約3社が廃業しています。一方、日本酒の輸出額は2019年度まで10年連続で増加。今年はコロナ禍でダメージを受けるでしょうが、ニーズは高い。かつ、海外では上質なお酒にお金を払う文化がある。今の日本酒にはない高価格帯の市場を作ることが、日本酒の未来を作る──。そう考えて18年7月、高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED(サケ・ハンドレッド)」を立ち上げ、自社サイトで商品を販売。高級ホテル・レストラン十数軒にも納入しています。
第1弾の「百光(びゃっこう)」(720ミリリットル税抜き2万5000円)は、純米大吟醸だけに特化する楯の川酒造(山形県酒田市)に醸造を委託し、日本酒の上質さを追究。「出羽燦々(さんさん)」という地元の有機栽培米を使うことで、透明感とうまみを共存させました。
1本(500ミリリットル)税抜き15万円の「現外(げんがい)」は、25年もの長期熟成をへたビンテージ日本酒。95年の阪神淡路大震災で被災した沢の鶴(神戸市)で、奇跡的に無事だったタンクに残っていた酒母(酒造りの途中段階)を絞り、熟成させることで唯一無二の味わいに仕上がっています。19年4月に先行販売した10本は半日で完売しました。
「天彩(あまいろ)」(500ミリリットル税抜き1万4000円)は食中酒の常識を覆す「デザート日本酒」。「思凜(しりん)」(720ミリリットル税抜き3万8000円)は精米歩合18%の純米大吟醸をミズナラの樽で貯蔵し、オーク香を溶け込ませました。
人生を変えた一口
もともとお酒は弱いんです。それでも日本酒を仕事にしようと思ったのは2011年秋、実家が酒屋の友人が持ってきた日本酒がきっかけでした。熊本県酒造研究所の「香露」という酒で、辛口が当たり前と思っていた日本酒が、なんともまろやかで、驚いたんです。
大学卒業後に会社員を2年ほどやって起業したいと思っていたこともあり、13年2月に会社を設立。自分のような日本酒ビギナーを増やすべく、日本酒を知るための専門ウェブメディア「SAKETIMES(サケタイムズ)」を14年6月に始めました。最初の1年くらいは収益は考えず、とにかく取材して記事をたくさん出して読まれる媒体にすることを心がけました。徐々に読者数が増えたところで、酒蔵と年間契約して記事広告を書くタイアップサービスも始め、少しずつ軌道に乗りました。
一方、海外を中心にニーズがあるのに日本酒には高単価市場が不在という課題も見え、その市場を作りたいと思いました。酒蔵側も課題意識は同じでした。海外にも広く知ってもらうには、無数にある銘柄を並べるより一つのブランドを覚えてもらう方がシンプル。そう考えてサケ・ハンドレッドを始めました。予定していた海外展開はコロナ禍で止まりましたが、香港、中国、シンガポール、ドバイへの輸出準備を進めています。3~5年で新規株式公開(IPO)し、今後20年で年商1500億円規模に拡大することを目指しています。(挑戦者2020)
企業概要
事業内容:高級日本酒ブランドの運営、日本酒専門ウェブメディアの運営
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2013年2月
資本金:約3億4800万円(資本準備金含む)
従業員数:19人(パート・アルバイト含む)
■人物略歴
いこま・りゅうじ
1986年生まれ。東京都出身。2009年日本大学法学部卒業。IT系企業などを経て13年2月にClear(クリア)設立。14年6月から日本酒メディア「SAKETIMES(サケタイムズ)」、18年7月からプレミアム日本酒のブランド「SAKE100(現・SAKE HUNDRED)」をスタート。34歳。