「日本で浮いてしまう人材」がなぜ幼稚園事業を立ち上げたのか……「高校退学体験」をばねにAIで主体性を育てる事業を展開
保育園での園児の行動データを動画やセンサーで取得。客観的なデータを活用することで、新しい保育のあり方を築こうとしている。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)
子どもたちが自分の頭で考え行動できるよう、主体性を育てることが大切だと考えています。
そのために必要なのが、子どもの気質や発達に応じた保育の実践です。
発達の見極めが重要ですが、保育士たちが個性や成長のスピードがそれぞれ違う子どもたちをもれなく見るには限界があります。そこで、私たちの保育園で始めたのが、客観性のあるデータを活用した保育です。
具体的には、人の動きを立体的に捉えることができる深度センサー付きのカメラを、保育園内に死角がないよう設置して撮影。子どもたちがどこでどのようなおもちゃで遊び、誰と過ごしたかなどのデータを記録し、AI(人工知能)技術で解析します。
遊び方、会話時間の増減などの情報は子どもの発達を理解する上で重要な指標で、このデータを現場の保育士に伝えることで、気質や発達段階に基づく保育が可能になります。
機械学習モデルを活用して園児の行動データの分析を行うソフトウエアの開発は、慶応義塾大学で出会ったエンジニアらが担当しており、内製です。
大規模な学習データを管理するためグループ内にデータサーバーを保有するなど体制を整えつつあります。
カメラによる記録は今年7月からスタートし、グループの保育園9園のうち2園で2歳児を対象に行っています。
2歳児を対象にしたのは2歳前後が「イヤイヤ期」と呼ばれる、何を言ってもイヤイヤと子どもが自己主張を始める時期で、行動も活発になるため、行動分析に適しているからです。
取り組みに興味を持った他の保育園事業者からも問い合わせがあり、関心の高さを感じています。
「日本の教育」に疑問
教育に興味を持ったのは、自分が受けてきた教育に疑問を持ったことがきっかけでした。
自分の意思とは違うことを押しつけられることが大嫌い。幼少期から友達とうまくなじめず、入学した高校でも私服で登校するなど、自分なりのスタイルを貫いていた結果、退学となりました。
「日本の教育が合わないんだと思う。海外に出てみろよ」と帰国子女の同級生からの言葉もあり、留学を考えるように。
親が自分のために500万円を借りてくれ、ニュージーランドへの留学を決めました。
日本では「浮いた存在」だったのに、30カ国ほどの留学生がいた学校では、のびのびと過ごすことができました。好きな教科を選択できる授業も向いていました。
帰国後は一般入試で慶応義塾大学に入学。主体性が重要だと実感しました。
私の母が保育士だったこともあり、2014年に起業した際には保育施設を運営しようと考え、開業コストが少なくてすむ病院の院内保育の受託を目指していましたが、実績重視の病院が多く苦戦しました。
そこで、JR川口駅前(埼玉県川口市)の元保育園だった場所で、母の知人などに声かけて保育士を集めて保育園の運営を開始しました。
来年4月には東京都渋谷区、同北区、さいたま市で3園のオープンが決まっています。3園にもカメラの設置を進めており、データに基づく保育を広げていきたいです。(挑戦者2020)
(本誌初出 菊地翔豊 エデュリー代表 データで育む園児の主体性 20201020)
企業概要
事業内容:保育園の運営(東京都、神奈川県、埼玉県で9園を運営)
本社所在地:東京都港区
設立:2014年5月
資本金:1000万円
従業員数:132人
■人物略歴
菊地翔豊 きくち・しょうぶ
1994年東京都生まれ。法政大学第一高等学校を中退。16歳でニュージーランドへ留学。帰国後、2014年5月にエデュリーの前身となる「KIDS ONE」を設立。20歳で認可外保育園、21歳で認可保育園の経営者となる。事業を続けながら15年4月に慶応義塾大学総合政策学部に入学し、現在在学中。ITを活用した保育の取り組みを進めている。26歳。