「世界的に見ても相対的に割安感」日本の不動産が海外マネーの標的になると考える理由
2012年の自民党への政権交代以降一貫して上昇を続けた地価は、新型コロナウイルスで様相が一変した。
国土交通省が9月29日発表した基準地価(7月1日時点)は、全国平均(全用途)の変動率が前年比0・6%減と、17年以来3年ぶりの下落となった。
商業地は0・3%減と5年ぶりに下落したほか、昨年、28年ぶりに上昇した地方圏の商業地は再び下落に転じた。
住宅地は0・7%減と下落幅を拡大させている。経済停滞が長期化すれば下落の一途をたどるだろうが、その内訳を見ると異なった様相も浮かぶ。
マイホームの世界は、新築や中古のマンション・戸建て共にさしたる影響はないどころか、足元では活況を呈していると言っていい。
一方で、商業地はコロナの影響が最も大きい。地価押し上げ要因となっていたインバウンド(訪日外国人観光客)需要が今年に入って激減し、不透明感が強まっている。
また、店舗への休業要請や外出自粛で国内の経済活動が大幅に停滞し、かつてホテルや商業施設用の不動産取引が活況だった地方の観光地や、東京の銀座や新宿、大阪の道頓堀付近など、繁華街エリアで値下がりが目立つ。
最高価格は東京都中央区の「明治屋銀座ビル」で、1平方メートル当たり4100万円だった。
最も上昇率が高かったのは住宅地、商業地ともリゾート開発が活発な沖縄県宮古島市で30%超。
しかし、東京、大阪、名古屋の3大都市圏の住宅地はすべてマイナスで東京、大阪が下落したのは7年ぶり。名古屋は8年ぶりだ。
地域別では地方圏が低調で、住宅地が0・9%減と下落幅が拡大。その傍らで、札幌、仙台、広島、福岡の4政令市の住宅地が3・6%増、商業地が6・1%増と底堅さも目立った。
3大都市圏より高利回りを求めた投資マネーが流れ込み、再開発が進んでいるためだ。
今回のコロナ禍では大規模な金融緩和が行われた。今後も維持されると、コロナによる経済的打撃が相対的に低く、かつ空室率が低く割安感のある日本の不動産を物色する動きが活発化してくる。
コロナ禍で東京を中心とした大都市圏の商業地が下落したとはいえ、大規模な金融緩和によるマネーが向かう先は、やはりこうした商業地になる。価格帯でいえば100億円以上といった、投資対象となるある程度高額な不動産は他になかなか存在しないためだ。
一部は「バブル化」も
アベノミクス以降、不動産は(1)価値維持または上昇(不動産全体の15%)、(2)緩やかに下落(同70%)、(3)無価値(同15%)──と3極化が進行した。
不動産市場は(1)についてのみ、今後も1980年代後半以降にみられたバブル的な局面に突入する可能性がある。
「バブル的な」というのは、例えば「マイナス利回りでの取引」だ。
バブル期やリーマン・ショック(08年)前のプチバブル期には、不動産の買いが買いを呼び、得られる賃料を勘案すると投資利回りがマイナスとなってしまう価格帯での取引が散見された。
その理屈は「賃料上昇は後からついてくる」といったもの。実体経済を無視する形で、世界的に見ても相対的に割安感のある日本の不動産が、国内・海外マネーの標的になる可能性がある。
(本誌初出 コロナが分けた基準地価の明暗/66 20201020)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立