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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

「もしノーベル賞に地球科学部門があれば確実に受賞していた」竜巻研究の世界的権威、藤田哲也博士の研究した「ダウンバースト現象」とは何か

小倉南図書館で藤田哲也博士の胸像やメモなどの展示資料を見て回る米国気象学会評議員のジェニファー・ヘンダーソンさん(右)=北九州市小倉南区で2019年10月22日午後3時23分、松田栄二郎撮影
小倉南図書館で藤田哲也博士の胸像やメモなどの展示資料を見て回る米国気象学会評議員のジェニファー・ヘンダーソンさん(右)=北九州市小倉南区で2019年10月22日午後3時23分、松田栄二郎撮影

前回は竜巻のメカニズムを解説したが、今回は「ダウンバースト現象」を紹介しよう。

発達した積雲や積乱雲から爆発的に吹き降ろす気流(ダウン)と、これが地表に衝突して広がる強風(バースト)を指し、航空機の離着陸などに大きな危険をもたらす。

毎年数件の発生が確認されており、気象庁は今年8月に栃木県日光市で発生した突風について、ダウンバーストの可能性が高いと判断している。

ダウンバースト現象は、竜巻研究の世界的権威で“ミスター・トルネード”の異名を持つ気象学者の藤田哲也博士(1920〜98年)が解明した。

藤田博士は竜巻の強度に関する世界基準を提唱し、木の小枝が折れる「F0」から、列車やトラックが吹き飛ばされる「F5」まで、6段階の「藤田スケール」として現在世界中で使われている。

藤田博士がダウンバースト現象を解明するきっかけとなったのが、米ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で75年に発生した航空機の着陸失敗事故である。

藤田博士は100人以上の死傷者を出したこの大惨事の原因が、突然発生した猛烈な下降気流によって飛行機が滑走路の手前で地面にたたきつけられたことにあると突き止めた。

航空機は周囲の大気と機体との速度差によって飛行に必要な揚力を得ているが、下降気流が水平方向に広がった際、航空機は向かい風を受けて揚力が増し、機体が上昇してしまう。

その後、下降気流によって機体の高度が下がると、今度は追い風を受けるようになる。

揚力が急激に失われて高度は一気に下がり、航空機は進入コースから大きく外れて、最悪の場合は墜落につながってしまう。

ダウンバーストでは地形の影響によって風速に変化が生じる場合もある。

谷を吹き抜けるような風があると、航空機のスピードが変化し進入コースから外れやすくなる。さらに強風によって生じる乱気流に遭遇する場合もある。

藤田博士の注目論文

下降流が地面に激突するダウンバースト現象を解析した藤田博士の論文は1万部も刷られ、世界各国へ配布された。

通例、こうした専門論文はせいぜい数十部刷れば終わりなので、この論文が学界だけでなく航空関係者、そして社会からいかに関心を持たれたかが分かる。

もしノーベル賞に地球科学部門があれば、藤田博士は確実に受賞していたと言われている。

ダウンバースト現象は厄介なことに、竜巻のように目に見える現象ではないにもかかわらず、甚大な被害をもたらす。

現在は気象ドップラーレーダーを用いればダウンバーストの発生を探知できるようになった。気象ドップラーレーダーは成田空港など多くの国際空港に配備され、24時間体制で監視されている。

(本誌初出 「ダウンバースト現象」とは 気流の猛烈な吹き降ろしと拡散/23 20201020)


 ■人物略歴

鎌田浩毅 かまた・ひろき

 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。

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