CO2削減で評判が悪いものの日本でも産出する貴重な資源……意外と知らない「石炭」の話
石炭は過去に生育していた植物が地下に埋積され、熱や圧力を受けてできた化石燃料である。地球上でシダ類などの植物が大量に生育していた約3億年前の出来事だ。この頃の世界中の地層に石炭が多く見つかるため、地質学では「石炭紀」と命名された。日本でも石炭は産出するが、5000万年前以降にできたものである。
地下に埋もれた植物の遺骸は、高圧と高温によって石炭へと変化(石炭化)した。その経過時間で炭素の含有率が異なり、高品質の無煙炭から褐炭や亜炭まで分類される。
石炭は18世紀後半に起きた産業革命以後、燃料のほか化学工業や都市ガスの原料として幅広く使われてきた。燃料源としては一般炭と原料炭に分けられる。一般炭は主に発電所で直接燃やされる石炭で、原料炭は製鉄に用いられるコークス原料として主に使われる。石炭を熱分解してコークスを作る際には炭化水素などのガスとタールなどの液体が出るが、いずれも化学工業用の原料として重要である。
CO2の抑制不可欠
石炭の埋蔵量は「理論埋蔵量」と「可採埋蔵量」に分かれ、掘削データから計算される。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、世界全体の可採埋蔵量は1兆350億トン(2017年末)で、可採年数(可採埋蔵量÷年産量)は134年と、石油(約40年)や天然ガス(約60年)よりもはるかに長い(石油と天然ガスの可採年数は経済産業省)。世界的に見ると、大規模な露天掘りによって生産される低コストの石炭が大量に出回っている。
石炭の価格は07年以降に急騰した。中国やインドなどで産業活動が急速に進展し、石炭の需要が一気に高まったためだ。中国は世界最大の産出国であるが、自国の消費量が生産量を上回った結果、17年の実績ベースでは石炭消費量で世界の48%を占める。
石炭は日本の発電量のおよそ5分の1を占めるが、燃やしたときに出る二酸化炭素(CO2)が石油や天然ガスよりも多い。当然ながら発電で燃焼した際に発生するCO2を減らし、有害物質を除去する技術が求められている。一方、日本は世界でも最先端の技術を持っており、効率のよい発電を実現している。
気候危機を回避するにはCO2の排出量が多い火力発電を減らさなければならないが、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでは穴埋めできないのが現状だ。政府が18年に策定した第5次エネルギー基本計画では、再エネを主力電源化する目標を掲げる一方、30年度の電源構成で化石燃料は5割以上の基幹電源とも位置づけられている。
埋蔵国が全世界に拡散している石炭は、安定した供給が見込める燃料である。近年では石油の代替燃料として石炭の液化技術も進んでいる。資源の少ない我が国こそ、資源問題と環境問題を同時に解決する石炭の高効率利用技術を積極的に開発・輸出する必要がある。
(本誌初出 可採年数「134年」の石炭 見過ごせない安定供給の利点/21 20201006)
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。