「いずれ100%発生」富士山が噴火すると細かい火山灰で通信施設がダウン、東京は都市機能を喪失し、在日米軍は撤退の可能性も
我が国有数の活火山である富士山は、300年ほど前の1707年に大噴火した(宝永噴火と呼ばれる)。大量の火山灰が東方へ飛来し、横浜で10センチ、江戸で5センチも降り積もった。
いま富士山が噴火すれば、風下に当たる首都圏では江戸時代とは比べものにならない大被害が出る。ハイテクの高度情報都市は細かい火山灰に極めて脆弱(ぜいじゃく)で、コンピューターに入り込んだ火山灰が通信機能をダウンさせるからだ。
国の中央防災会議は今年3月、首都圏が受ける被害想定を公表した。噴火から約3時間で都心が火山灰の直撃を受ける。噴火後の15日目に都庁付近では10センチほど積もり、東日本大震災で発生した廃棄物の10倍に当たる総量4億9000万立方メートルの火山灰を都内から撤去しなければならない。
エンジンを停止させる火山灰は航空機にとっても大敵で、羽田空港はもとより成田空港まで使用不能となる。さらに江戸時代の記録によれば、1カ月も舞い上がる火山灰によって目の痛みや気管支ぜんそくを起こす人が続出し、現代なら医療費が跳ね上がることは必定だ。
一方、富士山の近傍では噴出物による直接の被害が予想される。溶岩流や土石流が静岡県側に流れ出せば、東海道新幹線と東名高速道路が寸断され、経済的にも甚大な影響は避けられない。
国際情勢にも影響?
かつて、火山の噴火が国際情勢にまで影響を与えたことがある。1991年のフィリピン・ピナツボ火山の大噴火では、風下にあった米軍のクラーク空軍基地に大量の火山灰が降り積もり使用不能となった。これも契機となって米軍はフィリピン全土から撤退し、アジアの軍事地図が書き換えられた。近未来の富士山噴火によって、厚木基地をはじめ在日米軍の戦略が大きく変わる可能性も否定できない。
内閣府は2004年、富士山がもし江戸時代のように噴火した場合、2兆5000億円の被害が発生すると試算した。しかし、これでも過小評価ではないかと多くの火山学者は考えている。
私は「火山学的には富士山は100%噴火する」と説明するが、それがいつなのかを前もって言うことは極めて難しい。一方、噴火は直下型地震と違ってある日突然、襲ってくることはない。気象庁は観測機器から送られる情報をもとに24時間態勢で富士山を見張っており、現時点で富士山が直ちに噴火する兆候はない。自然災害では何も知らずに不意打ちを受けたときに被害が一番大きくなる。火山灰が降ってきてからでは遅いので、平時のうちに準備するのが防災の鉄則である。
現在、内閣府や静岡、山梨、神奈川の3県などで構成する富士山火山防災対策協議会が富士山のハザードマップ(火山災害予測図)を改定中で、21年度の完成を目指して作業を進めている。富士山の噴火対策は首都直下地震、南海トラフ巨大地震とともに、我が国にとって喫緊の危機管理項目なのである。
(本誌初出 富士山噴火の降灰被害 東京直撃で都市機能はマヒ/19 20200922)
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。