「半導体メーカーランキングでついに世界トップ10入り」も ファーウェイ子会社中国ハイシリコン社が「お先真っ暗」である理由
米調査会社ICインサイツによると、2020年1〜6月の世界半導体企業売上高ランキングで、中国ハイシリコンが10位に入った。同社は、中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)の集積回路設計に特化したファブレス(工場を持たない)子会社だ。中国企業がトップ10に登場するのは初。同社は前年同期は16位であったが、前年同期比49%増の急成長を遂げた。
ハイシリコンの売上高の90%以上は親会社であるファーウェイ向けだ。ファーウェイの成長とともにハイシリコンも成長した。同社は、ファーウェイの次世代スマートフォン向けアプリケーションプロセッサーを独自設計し、台湾TSMCに製造委託していた。その技術は、EUV(極端紫外線)露光装置を用いた最先端のものだ。
しかし、9月中旬以降はTSMCからファーウェイへの出荷はできなくなった。米国商務省が5月、ファーウェイグループが設計した半導体チップについて、ファウンドリー(製造受託業者)が米国製製造装置を使って製造することを事実上禁止する制裁措置を発表したからだ。製造をどこも引き受けなくなった以上、ハイシリコンの世界トップ10入りは一時的な現象に終わってしまいそうだ。
瞬時に開店休業
TSMCに代わる製造委託先としては中国最大のファウンドリー・SMICが候補に挙がったが、同社は米国商務省の通達に従ってファーウェイグループからは受注しないことを決めている。
中国政府の息のかかった半導体企業が米国商務省の通達に従うのはなぜか。SMICだけではなく、メモリーの量産体制に入ろうとしている長江ストレージ(YMTC)にとっても、一番恐れているのは、米国政府による米国製製造装置の輸出禁止である。主に米国製の装置を使って生産する中国ファウンドリーにとって装置輸入の凍結は致命的だ。
米国マイクロン・テクノロジーのメモリー製造技術を窃盗したとして、米国製製造装置の禁輸措置を受けた福建省晋華集成電路(JHICC)が、あっという間に開店休業状態に追い込まれた先例もある。中国半導体メーカー各社は、米国政府の怒りを買わないよう腐心している。
一方、米国製造装置の業界団体は、輸出規制に反対を表明している。中国への輸出を規制すると、業績が悪化し、研究開発費を減額せざるを得ないため、技術力が弱体化し、国家安全保障にも支障をきたすと主張している。
こうした中、米国防総省が、SMICを「エンティティーリスト」(米輸出管理法に基づき、安全保障や外交上の懸念があるとして指定する企業リスト)に登録することを商務省産業安全保障局に提案したと、ロイターなどのメディアが伝えている。SMICのリスト入りが決定したら、米国製製造装置を購入できなくなり、JHICC同様、工場稼働を維持できなくなる可能性が高い。逆もまたしかりで、米国装置メーカーの業績に悪影響を与える可能性が高い。
(服部毅、服部コンサルティング・インターナショナル代表)
(本誌初出 中国企業がトップ10入りも米製装置の禁輸で失速必至=服部毅 20201006)