経済・企業半導体 コロナ特需

成長分野(1) 医療・非接触 新たな社会課題がビジネスチャンスに=津田建二

     新型コロナウイルス感染拡大という社会課題を解決するため、半導体テクノロジーが使われ業界の業績は好調に推移している。世界半導体市場統計(WSTS)によると世界の半導体販売額は今年1~7月は年率換算6%前後の成長率で推移している。半導体関連銘柄で構成される米フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)は9月2日、史上最高値の2366を記録した。(半導体コロナ特需)

     半導体の当面の需要はリモートワークによるパソコン、サーバー、WiFiルーター向けである。しかし、「ウイルスが周囲に存在する」という前提で生活を送らざるを得ないニューノーマル(新常態)時代には、それ以外の新たな半導体需要が生まれてくるだろう。

     ◆医療 呼吸器にパワー半導体

    人工呼吸器には多くの半導体が搭載されている (Bloomberg)
    人工呼吸器には多くの半導体が搭載されている (Bloomberg)

     医療ではコロナに特化した対策が必要とされている。「ECMO(エクモ)」(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器には、ポンプを精密に駆動させるパワー半導体、呼気など空気の流れを検出する流量センサー、さまざまな電圧を供給する電源IC、装置全体を制御するマイコンなどが必要とされる。これらの半導体を集積した回路基板については、人工呼吸器向けはこれまで需要が少なかったため、人工呼吸器メーカー世界大手・メドトロニック(アイルランド)が細々と生産していた。

     しかし、コロナ禍で増産に対応し切れないと判断したのか、同社は人工呼吸器の仕様を無償で公開した。すると、日本のルネサスエレクトロニクスがその仕様を基に回路基板を製作し、さらに搭載する半導体を提供した。これには、ルネサスが買収した米半導体企業のIDTとインターシルを統合したルネサスエレクトロニクス・アメリカが寄与。まず、旧IDTが主導して回路基板を作り、旧インターシルの電源IC、旧IDTの流量センサーなどを搭載した。さらに村田製作所やTDKなどが得意な電子部品も回路基板には搭載されている。ルネサスがインターシルを17年に、IDTを19年に買収した当時は「無謀な買収」と酷評されたが、そうした評価を覆した。

     独インフィニオン テクノロジーズも人工呼吸器のポンプ駆動用のパワー半導体を提供することを発表した。同社はパワー半導体世界トップであり、製品ラインアップも充実している。それゆえ、人工呼吸器に合った仕様を持つパワー半導体を提供できた。

    高周波半導体も

     オーストリアの半導体メーカーams(エーエムエス)は、新型コロナウイルスの検査の結果が15分で出る光センサー半導体を開発した。amsは光センサーをはじめ、さまざまなセンサー半導体を得意としている。

     通常、PCR検査では、温度を上下させてウイルスを増幅させるため、検査結果を出すのに2~3日かかる。これに対して、amsは、従来からあるLFT(ラテラルフロー検査)と呼ばれる方法を使う。試薬と反応した検体の色で感染を判断するもので、わずか数分で結果が得られる。ただ、試薬と反応した色を目視でとらえるため、専門家が必要だった。amsの光センサー半導体を使う場合、7~8種類のカラーフィルターを付けた半導体で色を読み取り、結果を数値化し、デジタルデータとしてクラウドに送ると、即座に計算して判定結果が返ってくる。

     大学や研究機関もコロナ対応で半導体に注目した。米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)コンピューター科学&AI研究所のディナ・カタビ教授は、遠隔で患者の心拍数や呼吸数の波形を測定できる医療機器を開発した。機器はWiFiルーター程度の大きさで、自宅療養している患者の心拍数と呼吸数を常時測定し続ける。ミリ波(波長1~10ミリ、30~300ギガヘルツの超高周波帯)電波を高周波半導体で発信し、患者の身体(心臓や肺)の動きからの反射でわずかな距離の変化を受信用半導体で検出し、心臓や肺の拡張・収縮運動を測定する。測定した波形データはインターネット経由で病院に届く。医師たちは波形に異常があればすぐに連絡できる。

     ◆非接触 顔認証に画像センサー

     ニューノーマルの時代には、ディスプレーやドアノブ、エレベーターのボタンに触れない「非接触」技術も必要とされる。

     米テキサスインスツルメンツ(TI)は、ミリ波センサーを利用して手の動きを検出する半導体の回路基板を提供している。ミリ波の反射波で手までの距離を測定するもので、手を動かすと動いた位置までの距離を瞬時に計算する。この技術ならば、スマートフォンのページめくりなどは、ジェスチャーによって画面に触れずに操作できる。

     オフィスやイベント会場などでは、顔認証やカードキーによる入退出管理が増えるだろう。パナソニックは、入退室管理システム「eX−SG」を開発した。登録を済ませておけばエレベーターのボタンを押さずに、顔認証でオフィスまで行ける。外部の客は受付で顔を登録すれば、セキュリティーゲートを何にも触れずに通過でき、さらに面会者のいる階にエレベーターボタンを押さずに行ける。

     今後はこのような、入退室を非接触で行う製品・サービスが増える。それには、無線の送受信や制御マイコンなどの半導体は欠かせない。エレベーターやドアもカードキーによる入退室管理が広がる。顔認証技術はNECが世界トップレベルの技術を有し、顔を撮影するイメージセンサーはソニーが世界シェアトップを握る。カードキーには、無線回路と、ルネサスが得意なマイコン、アンテナなどが埋め込まれる。そして、システム全体の制御にはマイコンやメモリー半導体が使われる。

     ◆経路特定 ブルートゥース需要増

     感染経路の特定には、短距離無線通信・ブルートゥースが使える。ブルートゥースを内蔵した他人のスマホが近づくと、ブルートゥース同士のペアリング機能によって相手を検出する。日本の厚生労働省が提供する新型コロナウイルス感染確認アプリ「COCOA(ココア)」は、この原理を応用したものだ。

     ただ、スマホ同士のブルートゥース通信では「近づいた」と判断しても、1~2メートルの誤差がある。大病院などで感染者の軌跡を知りたい場合には誤差が少ない方がよい。より距離を正確に測るためには、ブルートゥースのアンテナを複数個搭載したスマホを使う。各アンテナとスマホの受信アンテナとの距離がわずかに違うことを利用して、より少ない誤差で距離と方向を知ることができる。こういった技術が近いうちに標準化されようとしている。ブルートゥース通信用の半導体需要がますます伸び、ブルートゥースチップやモジュールを手掛けるロームにとっても追い風になろう。

    装置・素材にも恩恵

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     日本には、半導体製造装置世界ビッグ4の一角を占める東京エレクトロン、シリコンウエハー世界1位の信越化学工業と同2位のSUMCO、フォトレジスト(感光液)で世界トップ2を占めるJSRと東京応化工業、マスクブランクス最大手のHOYAなど関連産業での有力企業は多い。こうした企業にとっても、ニューノーマルの半導体需要は新たなビジネスチャンスになる。

    (津田建二・国際技術ジャーナリスト)

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