教養・歴史コロナで消える・勝ち残る大学

「来年の受験生はかわいそう」コロナの影響のほかセンター試験廃止など「五重苦」ともいわれる2021年度大学入試の傾向と対策

    2020年1月に実施された最後の大学入試センター試験(東京大学で)
    2020年1月に実施された最後の大学入試センター試験(東京大学で)

     2021年4月の入学者を決める21年度大学入試が9月中旬からスタートした。受験シーズンが佳境に入る冬場に向けて、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、受験生の間に広がるのは「進学先をとにかく早く決めたい」という「超安全志向」だ。入試会場の感染予防に神経をとがらせる大学側にも、試験の早期化の流れが広がっている。入試戦線に何が起きているのか──。(コロナで消える・勝ち残る大学)

    「今年の受験生は四重苦でかわいそう」「いやいや五重苦だよ」。大学関係者は口々に言う。

     何しろ、21年度入試は「初めてづくし」だ。これまでAO(アドミッション・オフィス)入試と呼ばれていた面接や小論文で合否を判断する試験が「総合型選抜」と名称を変え、9月15日からスタートした。11月からは、従来の推薦入試が「学校推薦型選抜」に名を変えて始まる。受験生は更に年明けの1月16・17日には、これまでの大学入試センター試験に代わり、「大学入学共通テスト」を受けることになる。

     実は、受験生の安全志向は今に始まったことではなく、数年前から続いてきた。きっかけは、16年度から始まった文部科学省による入学定員管理の厳格化だ。

     首都圏を中心とする都市部の大学に学生が集中している状況を是正するため、各大学の入学者数が入学定員を超過することのないよう、定員充足率の基準を厳しくしてきた。数年の間に約25%も合格者を絞った難関私立大もあり、「浪人は回避したい」という心理から中堅以下の大学に志願者が集まったり、専門学校への進学率がアップしたりした。

     今回から始まる共通テストを巡っては、当初、入試改革の目玉とされていた「英語民間試験」と「記述式問題」の導入が見送られるなど、国の対応が現場の混乱を招いてきた。追い打ちをかけるように襲いかかったコロナ禍が、受験生や保護者の心理を極端な安全志向へと向かわせる。

     駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一氏は「学力上位層と下位層、地方と都市部で分断される入試になる」と予想する。

    「MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)クラス以上の一般入試受験層は難関大志望を変えていないが、それより下の学力層が、総合型選抜や学校推薦型選抜に流れる可能性がある。地方では地元志向が極端に高まり、地元国公立大へという流れが起きている」

     千葉県内の中堅公立高で3年の学年主任をしているある教諭は「受験生や保護者から、総合型選抜や学校推薦型選抜に関する問い合わせが殺到している」と言う。学校推薦型では、各大学から高校に来ている推薦枠について、具体的な人数を教えてほしいという保護者が多いといい、別の教諭は「推薦枠の取り合いや、保護者同士で腹の探り合いも起きている」と漏らす。

     東京都内の進学校に次女を通わせている保護者は「予備校の模試が中止や延期になったり、受験者が少なかったりして、娘の学力が正確にどの位置にあるのかが分からないまま秋になってしまった。不安だらけの中で、できることなら学校推薦で進路を決めてあげたいというのは親として当然だ」と話す。

    横国は共通テスト一本

     一方、大学側にも「超安全志向」ともいえる動きが出ている。

     総合型選抜や学校推薦型選抜の枠を増やし、「青田買い」を進めようとする大学も少なくない。首都圏の私立大の幹部は声を潜める。「例年、年内に合否を決める入試の枠は総定員の5割以下に抑えてきたが、今年は3割以上増やすことにした。ただ、一般入試の枠を減らせば受験料収入も減る。億単位の減収になるが、仕方ない」。

     とはいえ、総合型選抜や学校推薦型選抜も万全ではない。感染リスクを避け、オンライン面接を取り入れる大学の間で、受験生に「オンラインの接続トラブルが起きた場合に入試を打ち切ることがある」「システムトラブルによる再試験は実施しない」という趣旨の「同意書」を提出させるケースが続出。文科省から「試験を受ける環境で、受験生の不利になるようなことにならないように」との通知が出る事態となった。

     7月末、横浜国立大のホームページに掲載された長谷部勇一学長のメッセージに、関係者がどよめいた。「苦渋の決断ではありますが、本学で行う予定としていた個別学力検査は行わないこととしました」──。今年度に実施する一般入試の個別学力検査(2次試験)を取りやめ、共通テストだけで合否を決めるという。県域を越えて大量の受験生が移動すれば、感染拡大を招く恐れがあるとの判断からだ。

     早すぎる決断に賛否が分かれているが、今後の感染状況次第では、同様の対応を取る大学が出てくる可能性もある。共通テストは、かなり重要度が高まっているといえよう。

    地方国立大が人気

     ここで、駿台予備学校が7月12日に実施した模擬試験のデータから、21年度入試を占ってみよう。

     図1は国公立大、図2は私立大における系統別の志望動向を対前年度比で分析したグラフだ。国公立大、私立大とも前年同時期の第1志望者の数を100とした場合、今年の対比指数はどちらも100で、大きな変動はないように見える。学部別に見ると、国公立大の文系は社会を除き微増。理系では理、工ともやや減少しているが、駿台の石原氏は「近年人気が上がり続けてきた情報系が反動で減っているため」とみる。

     新型コロナウイルスの感染拡大によってオンライン授業やリモートワークの重要性が注目された。その技術分野である電気・電子・通信工、情報工に加え、土木・建築などのインフラ系は人気が高まっているという。

     一方、私立大では文系は法(政治)、経済・経営・商(経済・経営)の減少が目立つが、理系では工がやや増加している。やはり電気・電子・通信工、情報工、土木・建築などの人気が続いている。

     さらに、医系は国公立大、私立大とも一時期ほどの人気はないのも特徴といえる。近年、勤務医の厳しい労働環境が話題になっており、コロナ禍も医学部が敬遠される要因になっている。また、工系学生の就職が好調なことから、優秀な受験生が医系を避けて理工系に流れているようだ。

     図3、4は難関国立10大学の前期・文系、前期・理系の志願動向だ。名古屋大文系の志望者の大幅減少は、前年度の人気上昇の反動と考えられるが、都市部の大学ほど志望者が減り、東北や九州など地方大学の志望者が増えている。感染拡大が著しかった都市部を避け、地元に回帰する流れだ。図5を見れば更に、その傾向が強まっていることが分かる。

    (中根正義・毎日新聞編集委員)

    (本誌初出 2021年度入試 受験生も大学も超安全志向 強まる地方回帰の流れ=中根正義 20201013)

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