教養・歴史コロナで消える・勝ち残る大学

オンライン授業の普及で「地方私大が消滅」という不都合な真実……遠隔授業「60単位」を撤廃したい有名私大と地方私大の「バトルロワイヤル」の実態

    東大と早稲田の連携は日本の危機感を反映(今年3月)
    東大と早稲田の連携は日本の危機感を反映(今年3月)

     <コロナで消える勝ち残る大学 第1部>

    「大学のオンライン化推進に向け、遠隔授業で取得できる単位数の上限(60単位)を緩和してほしい」。新型コロナウイルス禍が深まる中、早稲田大や慶応大などが加盟する日本私立大学連盟が文部科学省に提出した要望書が、大学関係者の間で波紋を呼んだ。(コロナで消える・勝ち残る大学)

     文部科学省は、授業の品質を維持するため、大学4年間で取得する124単位のうち、オンラインなどの遠隔授業で取得できる上限を60単位に規制している。足元は、コロナ禍によるオンライン授業の急増で、この規制が一時的に棚上げされているが、私大連の要望は、この規制緩和の恒久化を求めるものだ。敏感に反応したのは、地方の私立大学だ。「早稲田大のようなブランド校が、オンラインを使って無制限に学生を集め始めたら、我々はひとたまりもない」。ある地方私大の学長は懸念する。

     別の地方私大の大学関係者も「オンラインが主体になれば、中小大学はコンテンツ作りにお金をかけられる大学に負けてしまう」と憂慮する。要望書では、あわせて、東京23区の私立大学に課してきた入学定員管理の緩和も求めている。オンラインの規制緩和が進めば、定員管理などの規制も一気に進むのではないか──。

     コロナ禍で、大学はオンライン環境の整備や学生への支援策など多額の負担をしている。学生数1万人のある大学では、5億円を超す持ち出しがあったという。もともと疲弊している地方の私大は、これ以上学生数が減れば、存続すら危ぶまれる。

     早稲田大の田中愛治総長は、「要望書」の真意をこう説明する。早稲田大は5月11日から再開した約1万5000科目の授業を全てオンラインで実施した。そこで分かったのは、「オンラインは予想以上に高い学習効果があること」だ。早稲田大のようなマンモス大学には、200〜500人単位の知識伝達型の「講義」が数多くある。今までは講師から学生への一方通行だったが、オンラインを使えば、質疑も活発に行うことができる。

     さらに田中総長は、オンラインを使って一つの科目で週に2回授業をする「反転授業」にも着目する。学生は週の前半にオンラインの講義を聞いて予習し、週の後半に少人数の対面授業でディスカッションをして理解を深める。しかし、「オンラインの上限が決まっていると、十分な効果が上げられない」(田中総長)。

     こうした一連の動きの背景には、「コロナを契機に、日本の大学が一段と周回遅れになる」ことへの懸念がある。欧米の大学に置いていかれないためには、デジタル技術を最大限に活用し、有能な人材を効果的に育てる必要がある。実際、「課題解決能力のある人材を育てる」ことに絞り、世界各地で共同生活をしながらオンラインで授業を受講する米ミネルバ大のような大学も登場している。大学設置基準という前時代の規制でがんじがらめにされていては、波に乗り遅れてしまう──。

    地方大学にこそチャンス

    英教育誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』の世界大学ランキング(表)では、日本でもっとも上位の東京大が36位にとどまる。

     日本企業はこの30年で、世界時価総額ランキングから姿を消し(図)、低成長にあえいでいる。日本の大学は国内産業の地盤沈下、人口減少などの重荷を抱えながら、世界の大学と戦わなければいけない。

     今年3月には、東京大と早稲田大が共同研究や学生交流、研究施設の利用などで連携協定を結んだ。国立・私立の枠組みを超え、「東大の研究力」「早稲田の応用力」というお互いの強みを組み合わせないと、欧米のライバルには勝てないとの危機感が背景にある。

    学生が欧米の大学に留学して驚くのは、授業の少なさだという。一つの科目について教員や仲間と議論し、深く学ぶ時間がある。米国では日本のように入学時から学部・学科で細分化されず、複数の専門性を持つこともできる。加えて、「9月入学」と「4月入学」の問題、そして言語の壁だ。ガラパゴス化を脱しなければ、優秀な若者は日本の大学に見切りを付け、簡単に外へ出て行ってしまう。

    こうした問題を克服した先には、地方の大学にこそチャンスがあると『大学とは何か』などの著書のある吉見俊哉・東京大教授は言う。「教育のオンライン化によって、どこにいても人とつながり、世界中の優れた授業を受けられることがあきらかになった。これから目指すべきなのは、地域を越え、国境を越えた、地球を基盤とする大学だ。ローカルな視点で、グローバルな問題の解決を目指すことが重要だ」。

    実際、地方大学も授業のオンライン化をチャンスと見る向きが出てきた。前橋市にキャンパスがある共愛学園前橋国際大は、地元でしか学べないプログラムを強化すると同時に、世界の二十数大学と提携し、「前橋にいながら世界の学びが得られる」仕組みづくりを進める。秋田市にある国際教養大は、世界のトップクラスの大学とオンライン授業を相互に受講し合うことで大学としての真価を試し、世界から学生を呼び寄せようとしている。

     消える大学、勝ち残る大学とは──。

    (市川明代、白鳥達哉、吉脇丈志・編集部)

    (本誌初出 遠隔授業の規制で大もめ 深まる地方と大手校の溝=市川明代/白鳥達哉/吉脇丈志 20201013)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    11月3日号

    コロナ株高の崩壊14 金利上昇で沈むハイテク株 11月にダウ5000ドル暴落も ■神崎 修一17 リスク1 米バブル 下落局面への転換点 ■菊池 真19 リスク2 GAFA 米IT潰し ソフトバンクも試練 ■荒武 秀至20 米大統領選 勝敗予想 バイデンの「雪崩的勝利」も ■中岡 望23 失業率が示 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事

    ザ・マーケット