コロナで人気が下がった学部、上がった学部 2021年度大学入試で競争率が急上昇しているのはあの学部だった
新型コロナウイルスの感染拡大で長引いた小中高の臨時休校。その間に、受験生には二つの心境の変化があったとされる。一つは、身の丈以下の難易度の大学を目指そうという安全志向が強まったこと。もう一つは、都市部を避けて近場の大学を目指そうという地元志向が高まったことだ。そして、コロナは学部・学科の志望動向をも変える可能性がある。
「全員留学」があだに
駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一氏は言う。「コロナ禍で留学が難しくなり、留学を必須としている学部はどうしても、カリキュラムとの整合性が求められる。この点が解消できないと志望者は戻らないのではないか」。
国境を越えた人の動きが制限される中、志願者減が見込まれる国際系だが、石原氏によると、この系統でも人気が下がらない可能性のある学部があるという。「コロナ禍でも経済はグローバルに動いている。青山学院大・国際政治経済学部や立命館大・国際関係学部など、04年以前にできた留学を必須としない国際系の志願者は増えるのではないか」。
ちなみに、千葉大は20年の入学者から大学全体で留学が必須となったが、20年入試では志願者の増減はほとんどなかった。今年夏に実施された駿台予備学校の模試でも、志望者は減少していないようだ。
次に志願者の減少が懸念されるのは、観光系学部だ。人の動きが制限されたことで、観光産業は大打撃を受けた。しかし、観光系の学びは「観光ビジネス」に限らない。地域振興を担う人材を養成しようという大学も多くある。この系統は、本来であれば地方の地元志向の受験生に注目されるはずだが、まだ情報が十分に行き渡っていないようだ。
21年4月に国学院大に新設される観光学部は、観光を基軸に持続可能なまちづくりを考え、多様な側面から地域貢献のできる人材を養成する方針を掲げている。地域振興を目指す観光系学部の間口は、今後も広がっていくはずだ。
立正大は来春新設
データサイエンティストの養成は、喫緊の課題だ。関西学院大は19年から全学部生を対象に「AI活用人材育成プログラム」を展開。同様のプログラムは、国立大では、北海道大、筑波大、千葉大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、神戸大、九州大などにみられる。私立大では、成城大、東京理科大、立教大、武庫川女子大など多くの大学が全学的に実施している。
現時点で「データサイエンス」という名称を持つ学部は、三つある。滋賀大と横浜市立大、武蔵野大だ。20年度の志願倍率(志願者数÷合格者数)は滋賀大と横浜市立大は前年度並みだったが、武蔵野大では1・4ポイント上昇した。21年度は3大学ともに倍率がアップする可能性が高い。
21年4月には立正大がデータサイエンス学部を新設する。私立大で2校目という希少性もあり、人気が高まりそうだ。一橋大は21年度から商学部に「データ・デザイン・プログラム」を開設する。構想を進めているソーシャル・データサイエンス学部(仮称)のパイロットを担う。難関国立大のデータサイエンス系の設置は、大きな注目を集めそうだ。
学部名にデータサイエンスと付かなくても、データサイエンティストを養成する学部や学科は数多くある。名古屋大の情報学部、九州大の共創学部、玉川大の工学部、中央大の国際情報学部、津田塾大の総合政策学部、東洋大の情報連携学部、法政大の情報科学部、明治大の総合数理学部、龍谷大の先端理工学部と経済学部などだ。対面のオープンキャンパスが中止になるなど、大学の情報が届きにくくなる中、こうした学部は逆に狙い目になりそうだ。
情報系とともに人気が高まっているのは看護、リハビリテーションなどの保健衛生系だ。コロナ禍で医療現場の過酷さを目の当たりにしたためか、医学部人気は下降気味で、この分野も人気が下がると予想されていたが、意外なことに志望者が増えている。この要因について駿台の石原氏は「就職先が限られる地方で、看護師などを目指す傾向が強くなっている」と話す。地方の大学生の就職先は、医療、介護、公務員、金融、観光などと選択肢は多くない。コロナ禍で経済状況が悪化する中、就職実績のある学部への期待が高まっているのだろう。
(井沢秀、大学通信情報調査・編集部部長)
(本誌初出 2021年度 人気学部 国際・観光系は冬の時代 強いデータサイエンス系=井沢秀 20201013)