「アマゾン」課税逃れを狙い撃ち 税制改革が大統領選で議論に=岩田太郎
米大統領選挙では主に、新型コロナウイルス対策や経済政策が争点となった。だが、米国社会の長年の懸案である経済格差問題を解決するカギになるとされる税制改革の議論も盛り上がっている。
トランプ大統領は10月14日の演説で、「再選されれば、(自身が2017年12月に成立させた税制改革法に加えて)さらなる企業減税を行い、加えて中間層世帯向けの大型減税を実行する」と述べた。しかし、リベラル系ニュースサイトの「アクシオス」は同日付の解説で、「トランプ大統領は中間層減税の詳細を語らなかった」と指摘した。
一方、保守系のFOXニュースは10月14日付の解説記事で、「民主党のバイデン大統領候補は8月のインタビューで『年収40万ドル(約4200万円)以上の者の税負担を引き上げる』と述べたが、ペンシルベニア大学ウォートン校の試算によれば、増税額の80%は所得が米国のトップ1%の人々が負担することになる」と報じ、バイデン氏の税制改革に富の再分配の効果があると示唆した。
ブルームバーグは10月15日付の記事で、「シンクタンクのタックスポリシー・センターの試算では、バイデン候補の公約がそのまま法律として成立したと仮定すると、中間層の真ん中20%の連邦所得税が22年に620ドル(約6万5000円)減る一方、年間71万ドル(約7500万円)以上を稼ぐトップ1%の税額は平均で26万5640ドル(約2800万円)増加する」と報じた。
格差解消につながるか
米金融サービスのエデルマン・フィナンシャルエンジンの創業者であるリック・エデルマン氏は、投資週刊誌『バロンズ』電子版8月7日付の分析記事で、「バイデン案における個人所得税の最高税率は39・6%と、裕福層ほど負担が重くなる累進性が強い。だが、歴史的に見れば40年前の最高税率は70%、そして1980年代には50%であった。これは、共和党のレーガン大統領が始めた累進性の低いフラットな課税構造を引き継ぐものだ」と論じた。
翻って、バイデン氏の企業税制案については投資サイト「モトリーフール」が10月18日付の記事で、「18年と19年に法人税をまったく支払わなかった通販大手のアマゾンを狙い撃ちにしている」と指摘。「バイデン候補は『アマゾンは税金を払い始めるべきだ』と語っているが、当選すれば『アマゾン税』とも呼ばれる法人税率引き上げを行うだろう」と予想する。
一方、会計大手アーンスト・アンド・ヤングの税務担当副会長であるケイト・バートン氏は『バロンズ』の記事で、「トランプ大統領は法人税率を17年に35%から21%へと引き下げ、バイデン候補はこれを28%にまで引き上げるとしている。だが、究極的には21%か28%かは関係なく、両者とも米企業が米国における課税逃れをしないレベルが目標で、大きな違いはない」と述べ、バイデン案が中道的であることを強調した。
また、CNNビジネスも10月9日付の記事で、多くの金融企業のトップがバイデン候補を支持している「謎」に触れ、「バイデン増税は銀行の収益に悪影響を与えるが、これら金融機関は(還付が予定される)多くの繰り延べ税金資産を保有しており、より高い法人税率の衝撃を十分に緩和できる。これらの繰り延べ税金資産価値は、法人税率が引き上げられることで、かえって上昇するからだ」と解説した。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)