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北朝鮮が「脱中国」の衝撃……5年ぶりに開催される「朝鮮労働党の党大会」で何が決まるのか

    水害の復旧を終えた黄海北道金川郡江北里を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(中央先頭)。朝鮮中央通信が9月15日報じた(朝鮮通信=共同)
    水害の復旧を終えた黄海北道金川郡江北里を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(中央先頭)。朝鮮中央通信が9月15日報じた(朝鮮通信=共同)

    一党独裁制の北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党は8月19日、約5年ぶりとなる第8回党大会を来年1月に開催することを発表した。

    党大会は朝鮮労働党の最高機関であり、党の路線と政策を決定したり、党首班(委員長)を推戴したりする。

    前回2016年5月の第7回党大会で決定・推進された活動を総括し、新たに党と政府の課題を決定することが大きな議題となる。

    朝鮮労働党の党大会は1946年に開催された北朝鮮労働党の創立大会以来、現在まで7回開催されてきた(北朝鮮労働党が朝鮮労働党になるのは49年)。

    第8回党大会は、金正恩(キムジョンウン)委員長が朝鮮労働党の首班になってから2回目の党大会である。

    党大会自体はどの国の政党でもたいてい開催されているが、日本や米国のような多党制の国と北朝鮮や中国のような一党独裁制の国では党大会の重要度が異なる。

    多党制と一党独裁制では、法の成立過程での重要部分が逆になる。

    多党制の場合には、政党で審議・決定された法案が、国会議員や行政府を通じて、国会に提出・審議されて法として成立するので、国会での審議の過程で修正されたり否決されたりもする。

    しかし、一党独裁制では野党が存在しないので国会での審議は意味がない。

    そのために、党大会やその他の朝鮮労働党の会議の決定は、北朝鮮の国会である最高人民会議よりも重要になってくる。

    	ウラジオストクに到着し、ロシア軍の儀仗隊を閲兵する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=ロシア・ウラジオストクで2019年(平成31年)4月24日、大前仁撮影
    ウラジオストクに到着し、ロシア軍の儀仗隊を閲兵する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=ロシア・ウラジオストクで2019年(平成31年)4月24日、大前仁撮影

    来年1月に招集

    朝鮮労働党の8月19日付の「党中央委員会第7期第6回全員会議決定書」によれば、第8回党大会は日付は明らかにされていないが、来年1月に招集される。

    ここで挙げられた議題には、(1)党中央委員会事業総括、(2)党中央検査委員会事業総括、(3)党規約改正について、(4)党中央指導機関選挙──の四つがある。

    また金正恩委員長の演説によると、この5年間の総括と来年から推進される予定の「国家経済発展5カ年計画」も含まれている。

    第7回党大会では数々の政策と方針が掲げられたが、その一つに16年から5カ年の「国家経済発展5カ年戦略」があった。

    「国家経済発展5カ年戦略」と「国家経済発展5カ年計画」は、「戦略」と「計画」が異なるが、何が違うのかは現在のところは分からない。

    ただ、かつて北朝鮮で推進されていた経済政策は「計画」であった。「人民経済発展計画」などと呼ばれていたのである。

    かつて経済計画は党大会で提示され、党大会で総括されてきた。

    しかし、70年の第5回党大会を最後に経済計画は提示されなくなった。

    80年の第6回党大会では経済計画ではなく「社会主義経済建設の10大展望目標」が掲げられた。

    当時は「人民経済発展第2次7カ年計画」(78〜84年)が推進されている最中であった。

    北朝鮮で実施された最後の経済計画は、87〜93年の「人民経済発展第3次7カ年計画」である。

    この「人民経済発展第3次7カ年計画」は未完遂で終わった。

    その後は「苦難の行軍」(95〜00年)という飢餓すら蔓延(まんえん)する経済危機の時代に入り、その後も全国・全分野の経済計画は実施されなかった。

    その意味で、第7回党大会で提示された「国家経済発展5カ年戦略」は、「人民経済発展第3次7カ年計画」以来の事実上の経済計画ともいえる。

    南北首脳会談に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と金与正党第1副部長
    南北首脳会談に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と金与正党第1副部長

    本誌記事で一端が

    ただ、「国家経済発展5カ年戦略」は、それまでの経済計画とはさまざまな点で異なる部分があった。

    特に、各分野の数値目標すら公開されなかったのが大きな相違点である。

    しかし、実際には各分野に数値目標が設定されていたようである。

    その概要は、19年4月21日付『毎日新聞』朝刊と、『週刊エコノミスト』(19年4月30日・5月7日合併号)掲載の記事によって明らかとなった。

    これらの記事は、韓国通信社ニューシス元東京特派員の趙允英(チョユニョン)氏が、北朝鮮で極秘指定されている「国家経済発展5カ年戦略」と、その方針に基づき19年の課題を示した19年1月21日付の文書「内閣決定第2号」を入手し、毎日新聞社の米村耕一記者がそれを精読した上で、解説を付けて内容を説明したものである。

    記事によれば、「国家経済発展5カ年戦略」の経済全体の数値目標は、GDP(国内総生産)の年平均8%成長であった。

    しかし、これは過大な数値目標である。

    18年10月12日配信の『共同通信』の記事によると、北朝鮮のシンクタンクである社会科学院経済研究所の李基成(リギソン)教授に対するインタビューで、17年のGDP成長率は約3・7%であったことが分かっている。

    北朝鮮の核開発に対する国連安保理の経済制裁もあり、 「国家経済発展5カ年戦略」の数値目標は甚だしく未達成である公算が高い。

    実際、朝鮮労働党も第8回党大会の開催を発表した決定書の中で、「厳しい対内外情勢が続き、予想しなかった挑戦が重なるのに合わせて経済事業を改善できず、計画された国家経済の成長の目標が遅れ、人民生活が明確に向上しない結果ももたらした」と記している。

    「国家経済発展5カ年戦略」は今年12月末まで続くはずだが、今夏の台風による被害も大きく、北朝鮮経済は厳しい状況に置かれている。

    馬息嶺スキー場の建設現場をチェックする金正恩第1書記の姿を1面で報じる「労働新聞」(8月18日付)
    馬息嶺スキー場の建設現場をチェックする金正恩第1書記の姿を1面で報じる「労働新聞」(8月18日付)

    コロナで方針強化か

    「人民経済発展」から「国家経済発展」になり、「戦略」から「計画」への転換を経て、第8回党大会で「国家経済発展5カ年計画」が提起されることになるのだが、「人民経済発展計画」と同じように数値目標が公にされるとは限らない。

    もし公にされなければ、「国家経済発展5カ年戦略」のように、概要を把握することすら時間がかかるであろう。

    筆者は北朝鮮経済の専門研究者ではないため、最近の朝鮮労働党会議の政治的な動向から推測するしかないが、現在の状況で経済計画を策定するとなると、対外経済にあまり期待できないはずである。

    というのは、現在の朝鮮労働党は、経済制裁の解除を期待しないことと、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)が終息するまでは厳しい防疫管理をすることを決めているからである。

    次の「国家経済発展5カ年計画」の方向性を見通すうえでは、第7回党大会で掲げられていた目標が参考になる。

    第7回党大会では、貿易では技術貿易やサービス貿易など無形資産の割合を高めることが目標に掲げられていた。

    そして、「一辺倒をなくすこと」も掲げられていたが、これは先の米村氏の記事の中で明らかにされていた「脱中国」を意味すると考えられる。

    国連安保理制裁が続いている以上、「国家経済発展5カ年計画」でも、やはり中国一辺倒の是正や無形資産の割合を高めることが目標に掲げられ、全体的に対外経済への依存を減らすことになるのではないだろうか。

    無形資産はパンデミックの影響が少ないとも考えられる。

    北朝鮮では「人民経済発展計画」の時代に、「社会主義自立的民族経済建設路線」の概念が構築された。

    この概念は現在でも憲法に掲げられており、対外貿易では自国で不足のものを輸入して余ったものを輸出するという「有無相通の原則」を基本としている。

    現在の北朝鮮の状況を考えれば、次の経済計画は「社会主義自立的民族経済建設路線」がより強調されたものになるのかもしれない。

    (宮本悟・聖学院大学政治経済学部教授)

    (本誌初出 労働党大会を5年ぶり開催へ 厳しさ増す北朝鮮の「経済計画」=宮本悟 20201020)

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