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アメリカ・カリフォルニア州で「ガソリン車販売禁止」の衝撃……低価格帯EVの市場投入で「EVシフト」が一挙に進むのか

    カリフォルニア州サンマテオにあるテスラの充電ステーション (Bloomberg)
    カリフォルニア州サンマテオにあるテスラの充電ステーション (Bloomberg)

     米カリフォルニア州のニューサム知事が9月23日、2035年から同州内でガソリン、ディーゼル車などICE(内燃機関)乗用車の新規販売を禁じる、という知事命令を出した。実現すれば米国では初のICE車の販売禁止の州となる。欧州などでは同様の目標を掲げる国も増えているが、自動車大国の米国の中でも全米一の自動車社会である同州がICE車を販売禁止するインパクトは大きい。

     EU(欧州連合)ではデンマーク、ドイツ、アイスランド、オランダ、スロベニア、スウェーデンがカリフォルニア州より早い30年からのICE車販売禁止を掲げており、英国も従来計画を早めて30年とすることを検討している。アジアでも、シンガポールが40年を目標とし、中国も時期は未定ながらICE車の販売禁止の方向に動き始めている。北米ではカナダの一部州がすでに40年の販売禁止を法案化した。

     カリフォルニア州の場合、昨年の時点で40年からのICE車の販売禁止を目指していたが、昨年と今年の山火事の影響を受け、その目標が早まった。昨年の山火事による経済的損害は800億ドル(約8兆4500億円)以上と見込まれており、史上最悪と言われたが、今年はすでにそれを上回る被害が出ている。もともと山火事の多い州だが、ここまで被害がひどくなった一因が気候変動による異常乾燥だ、と考える識者は多い。

    充電ステーション強化

     しかし、山火事という要因を除いても、同州は以前から温室効果ガスへの取り組みに最も積極的な州として知られてきた。12年の時点で当時のブラウン知事は25年までに州内のZEV(無公害車、電気自動車〈EV〉や水素燃料電池車〈FCV〉などを含む)を150万台とし、30年には500万台とする、という目標達成のため州政府機関に努力を促す知事命令を出していた。

     18年には同じくブラウン知事が州内に200カ所の水素ステーション、25万カ所のEV用充電ステーションを設置する、という目標を掲げた。この動きは現在のニューサム政権にも受け継がれており、今年8月には州内の電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンに対し、州政府が4億3600万ドル(約460億円)を支援して、4万カ所のEV充電ステーションを設営するプログラムが承認された。

     プログラム承認を後押ししたのは、さまざまな分野のステークホルダーグループ(利害関係者集団)で、「シエラクラブ」などの環境保護団体だけではなく、EV関連のバッテリーなどを供給する企業、さらに北米ホンダ、自動車イノベーション協会、自動車生産者協会といった自動車メーカー関連、大学研究所なども含まれていた。

     ちなみに、カリフォルニア州のZEV関連の法案は、常に米北東部を含む12以上の州が追随しており、今回のICE車の新規販売を禁じる命令も、同様の目標を掲げる州が増えると考えられている。特にニューヨーク州は7億5000万ドルのEV充電ステーション設置支援を州内の六つの電力会社などにすでに承認しており、ZEV導入に最も熱心な州の一つだ。

    価格低下が進むEV

     カリフォルニア州は18年の州内の新車販売台数が約200万台で、全米の販売台数1721万台の12%弱を占める。25年までに州内のZEVを150万台に、という目標を達成するには、誰もが求めやすい価格のEVなどが発売されることも必須条件。カリフォルニア州は米国でのEV販売台数のおよそ半分を占め、昨年1年間の同州の販売台数は15万6101台だった。累計販売台数は70万台余りで、目標にはまだまだ及ばない。

     一方で、EV価格は年々下落しており、米調査会社ベロズによれば18年と19年の比較では、全世界で販売されるICE車の価格が平均で2%上昇したのに対し、EVは3%下落した。また過去10年間でEV用バッテリー価格は87%も下落している。EVの平均価格が下がったのは、17年から受注生産・納車を始めたテスラ社の「モデル3」がベストセラーとなり、全体の価格を引き下げた効果も大きい。

     米国では連邦政府がEV購入に補助金を出しているが、カリフォルニア州も補助金を出している。インサイドEV社の調べによると、こうした補助金を差し引いた場合、米国で最も安いEVは独BMW「MINIクーパーSE」(2万3250ドル)、日産自動車「リーフ」(2万5025ドル)、韓国・現代自動車「IONIQ」(2万6520ドル)など。テスラの「モデル3」は3万9190ドルからとなる。

     テスラ社のイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が「2年以内に2万5000ドル程度で購入できるEVを発売する」と語るなど、人々が求めやすい価格のEV開発競争は今後進み、補助金なしで2万ドル台のEVが普及することも決して不可能ではない。カリフォルニア州の決断は、実現すればEVメーカー、そしてEVやFCVにシフトしようとする自動車メーカーにとっては大きなチャンスとなる。

    大統領選の結果が左右

     ただし、今年11月の大統領選挙でトランプ政権の継続が決まった場合、ICE車の新車販売禁止という方向性には黄信号がともる。ニューサム知事の今回の決断は、「グリーンニューディール」を掲げて脱炭素化を公約している民主党のバイデン氏の下では実現可能でも、地球温暖化に懐疑的なトランプ政権では連邦政府から反対される可能性が極めて高い。

     ただし、欧州などで脱ICE車の動きはすでに広まっており、特に欧州のメーカーはこれに対応する方向ですでに動き始めている。このため米国内で自動車メーカーが法案に対しどのような反応を見せるのかにも注目が集まる。フォード・モーターはすでに昨年の時点で、一部の人気モデルを除くすべての乗用車モデルを今後ICE車からEVにシフトする、と発表している。

     また、ゼネラル・モーターズ(GM)が米EVピックアップトラックメーカーであるニコラ社に20億ドルを出資するなど、メーカーがEV新興企業に投資、提携する動きも進んでいる。米メーカーではないが、スウェーデンのボルボは全ての車両のEV化を発表しており、メーカーのこうした動きは今後もさらに広がると見込まれている。カリフォルニア州の決断は、10年以上先の世界とはいえ、実現の可能性を大いに秘めている。

    (土方細秩子・米ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

    (本誌初出 加州がガソリン車販売禁止へ 「決断」に至ったこれだけの事情=土方細秩子 20201020)

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