アメリカFDAが承認間近?エーザイが共同開発する世界初のアルツハイマー病根本治療薬「アデュカヌマブ」とは何か
認知症の原因の約7割を占めるアルツハイマー病。その新治療薬として現状、最も有力視されるのが、エーザイと米バイオジェンが共同開発する新薬「アデュカヌマブ」だ。アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドベータ(Aβ)の機能を阻害する抗体薬品(抗Aβ抗体)だ。
両社は今年7月、米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDAは通常より短期間で結論を出す「優先審査」に指定し、2021年3月7日(米国時間)までに承認の可否を判断する。今まで、FDAの審査までたどり着いた抗Aβ抗体の開発品は存在せず、もし承認されればアルツハイマー病の進行を長期間抑える世界初の薬が実用化されることになる。ただ、審査の行方は予断を許さない。
諮問委の採決に注目
FDAが承認を判断する前に、科学的・技術的な事項についてFDAに助言や勧告を行う諮問委員会が開かれ、承認勧告を出すか採決を取る。開催時期は未定だが、今年末から来年初頭に開かれると見込まれる。諮問委の採決は、FDAの承認可否の判断とは独立しているものの、おおむね相関しているため、株式市場はまず諮問委の採決に注目するだろう。
FDAの審査に至ってもなお、承認可否が不透明であることには、重大な理由がある。エーザイとバイオジェンは臨床試験で最終段階の第3相試験を二つ実施したが、その結果が一致しなかったからである。一つの臨床試験では、プラセボ(偽薬)群に比較して臨床症状を改善し、有効性を証明することができたが、もう一方の臨床試験では証明できなかった。
そもそも、アルツハイマー型認知症の発症の仕組みは完全に解明されておらず、Aβを原因物質とする仮説が有力と考えられてきたに過ぎない。つまり、仮説自体が間違っている可能性もある。しかし、有効性を証明できた方の試験結果では、患者の脳内のAβが減少していたことから、アデュカヌマブの効果がある可能性を示唆していると捉えることもできる。
現在、最も期待されるアデュカヌマブが承認されなければ、Aβの除去を目指す似た作用機序の他の新薬候補にも影を落としかねない。エーザイとバイオジェンがアデュカヌマブに続く新薬として開発中の「BAN2401」のほか、米イーライリリーやスイス・ロシュなどの開発品への期待感もそがれていく可能性がある(表)。
FDAは臨床試験データの他にも、社会的価値や患者団体からのニーズなどを総合的に鑑みて、最終的にアデュカヌマブの承認可否を決定する。Aβ仮説に基づいた新薬開発全体の行方を左右する、まさに大きな“分水嶺(ぶんすいれい)”となる。
(田中智大・SMBC日興証券アナリスト)
(本誌初出 認知症 エーザイなど“世界初”新薬 来春の米承認判断が分水嶺=田中智大 20201020)