映画 燃ゆる女の肖像 肉と魂の溶け合うアムール 濃密で精緻なサスペンス=芝山幹郎
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古くさい題名と感じるかもしれないが、尻込みすると大魚を逃す。敬遠も損だ。題名の陰に力強い呪術が潜んでいる。恐るべき暗渠(あんきょ)も隠れている。深くて、優雅で、勇敢で、見る者をとんでもない場所へとかどわかしていく映画だ。
「燃ゆる女の肖像」は、ブルターニュ沖の小島を舞台に選んでいる。時代はフランス革命が起こる少し前の18世紀後半。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を描くため、島に渡る。娘の母親(ヴァレリア・ゴリノ)は肖像画をミラノの貴族に送り、いわゆる見合写真の代わりにしようとしている。ただし、エロイーズは描かれることを好まない。
そうか、画家とモデルの話か。反射的にそう考えたくなるが、これを主体と客体に置き換えると、話が見え透いてしまう。監督のセリーヌ・シアマは、深みを恐れぬ大胆な足取りで、映画を迷宮の奥へと進めていく。
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週刊エコノミスト
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