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教養・歴史 書評

『思考の教室 じょうずに考えるレッスン』 評者・藤原裕之

著者 戸田山和久(名古屋大学大学院教授) NHK出版 1800円

「疑似論理」から身を守る 練習問題付きトレーニング

 私たちは「じょうずに考える」のが下手だ。ネット上ではさまざまなデマや中傷、陰謀論が飛び交い、「自分は引っ掛からない」と思っていても、つい、うのみにしてしまったりする。私たちがじょうずに考えられていない証左でもある。

 私たちはなぜじょうずに考えられないのか、じょうずに考えるとはどういうことで、どうすればできるのか。本書は「考える」ことについて考え、身体に覚えさせるための思考のトレーニングブックである。

 本書は基礎編と実践編の2部構成になっている。基礎編ではまず、じょうずに考えるとは何かを定義する。人間には生まれ持った思考のクセがあり、これがじょうずに考えることを妨げている。思考のクセを抑え、一見論理的に見えて実はそうではない「疑似論理的思考」と呼ばれる思考パターンから逃れるには自分の思考・主張にツッコミが入ることを想定し、それじたいが正しいと考えられる証拠によって補強していくことだ。

 実践編では、じょうずに考えるようになっていない私たちのアタマを補うための三つの手段が紹介される。一番手は「テクノロジー」。思考強化テクノロジーの一つが、意外にも「言葉」だ。人間は結局、体得した言葉の範囲でしか思考することができない。逆に言えば、新たな言葉を身に付ければ、思考も拡張していくのだ。語彙(ごい)力を増やす方法として、著者の「語彙ノート」も紹介されている。補強手段の二番手は「他者とみんなで考えること」。そのためには、自分の考えを相手に伝える(文章設計術)、相手の考えを理解する(クリティカル・リーディング)、互いの考えをやりとりしながらいっしょに考える(議論術)の三つのスキルが重要だとする。

 三番手は「みんなで考えるための制度(しくみ)をつくって考える」。自分たちの正しさを誰も疑わない「集団思考」のような危険な事態を回避するため、著者は「ちょっと違う人」と議論する時は「寛容の原理」を働かせるなど効果的なルールを提言する。

 本書は身近な例が豊富にちりばめられ、著者の人柄がにじみ出る表現力も加わって非常に読みやすい。しかし、本書は普通の読み物とは違い思考のトレーニングブックである。各章に設けられた42問の練習問題が本書を「トレーニングブック」たらしめている。一つ一つこなしながらじょうずに考えるための筋力がアップしてくれる仕組みだ。

 新たな課題と向き合う時に手元に置いておきたい一冊である。

(藤原裕之・センスクリエイト総合研究所代表)


 戸田山和久(とだやま・かずひさ) 1958年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科単位取得退学。科学哲学を専門とする。著書に『恐怖の哲学』『論理学をつくる』『哲学入門』などがある。

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