経済・企業 チャイナ・ショック!2021
大手商社、メガバンクに100人規模で在籍していた!「中国共産党員」200万人名簿漏洩で発覚した日本の危機管理のデカい穴
日本を代表する大手商社、メガバンク、大手化学企業の中国支店には、多数の中国共産党員が在籍しているのをご存じだろうか。党に高い忠誠を誓っている彼らが日本経済の安全保障上の脅威にならないか、今一度考える必要がある。
「在外公館に中国共産党員はいるか」を国会で質問した山尾議員
国民民主党の山尾志桜里衆議院議員が、3月17日の衆議院外務委員会で外務省に対して中国にある日本の大使館をはじめとする在外公館における現地採用職員の中に「中国共産党員はいるのか」と質問した。
外務省は「お答えは差し控える」として明確な答えは得られなかった。
この質問の背景には2020年12月12日に「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」が「中国共産党上海市部会員登録簿の漏えいしたデータベースについての声明」を発表したことに端を発している。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)とは中国と民主主義諸国間の交渉のあり方の改革を目的に、民主主義諸国の国会議員らによって昨年、設立された国際議員連盟である。日本からの参加代表者は、自民党の中谷元元防衛大臣と国民民主党の山尾志桜里議員が努めている。
党員は9200万人
中国共産党員の数は2020年時点でおよそ9200万人と推計されているが、中国共産党がその詳細を公表したことは、過去一度もない。その名簿が「アクティビスト(活動家)の手によって漏えいしたようだ。
IPACが入手したデータは、中国共産党上海支部が所有する「MYSQL」というデータベースから抽出したものとされているが、真偽のほどはわかっていない。インターネット経由ではデータベースにアクセスできないことから、物理的にデータベースに直接アクセスできた者がデータ抽出したと推測されている。
中国共産党は「漢民族」が支配する党
筆者はあるルートから、そのデータを入手した。
データには、上海を中心にした約8万の中国共産党支部とそれらに所属する党員の名前、性別、民族、出身地、所属する中国共産党の支部、住所、党員番号、最終学歴と電話番号が記載されている。
今回、漏えいしたデータは、中国共産党全党員の2・1%に過ぎないが、このデータからでも中国共産党の実像を窺うことができる。
まず、このデータからわかる事は、中国共産党員のほとんどは漢民族であるというとだ。名簿の98・9%は漢民族であり、まれに朝鮮族、蒙古族などが散見される程度だ。
大手商社1社に35人、メガバンク1行に96人が在籍
所属する中国共産党の支部名から所属している企業名が分かる。
例えば、日本の某大手商社Mの上海支店には党員35人が在籍しており、全員が漢民族である。
また、某メガバンクMの支店には、第1支部、第2支部、第3支部合わせて党員96人が在籍している。第1支部、第2支部、第3支部とは上海本店、上海分行、上海自貿試験区出張所に対応していると思われるが、それらの党員も全員、漢民族である。
永遠に党を裏切らない誓い
「中国共産党規約・第1章第6条」は、党員を目指す予備党員は必ず党旗に向かって入党宣言を行わなければならないとしている。そのうえで「党員の義務を履行し、党の決定を実行し、党の規律を厳守し、党の機密を守り、党に忠誠を尽くし、積極的に活動を進め、共産主義のために終生奮闘し、いつでも党と人民のために全てを犠牲にする用意があり、永遠に党を裏切るようなことをしない」と誓うことになっている。
国に協力しなければならない「国家情報法」
某メガバンクの場合、10を超える中国の主要都市に支店を構えている。都市の中でも、特に大きい第1線都市(全国的な政治・経済・社会活動で重要な地位にあり、指導的役割を持つ大都市)の一つ上海市では、前述の通り100人近い党員を雇っている。
これだけの数の中国共産党員がいるなかで、顧客をはじめとする機密情報が守れるのか危惧される。
情報漏えいが懸念される背景には、中国には「中国国家情報法」があるからだ。
中国国家情報法とは2017年6月に施行された法律で、中国国民の権利義務として第7条で「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」としている。
LINEにも「スパイ法」適用か
中国人は全員スパイ活動を国のために行え、とするこの法律は、中国の組織と国民に科せられたもので、たとえ経営者の方針が中国共産党の意に背く考えを持っていたとしても従業員が中国人であれば、企業の情報が不正に持ち出されてしまう可能性がある。
3月、通信アプリ大手「LINE」の利用者の個人情報が中国で閲覧可能な状態にあったことが分かった。
中国人従業員が、中国にある同社のサーバーにアクセスし情報を盗み見ていたとの報道もあり問題になった。単に個人情報保護法上、利用者の同意があれば、海外でのデータ保管も許されるといった次元の問題では済まされない問題であることが分かるだろう。
中国には元々「愛国無罪」、すなわち国家の利益のためには犯罪行為も許されるとの考えがあり、組織としてのガバナンスやコンプライアンスも意味をなさない。
とりわけ党旗に忠誠を誓った中国共産党員にしてみれば、中国国家情報法がなくとも中国共産党の発展のためにスパイ活動を行うことは当然のことではないだろうか。
東レの中国人社員が戦略物資を横流し
昨年12月には、東レの中国子会社から、数年前から外為法上の許可を得た販売先ではない中国企業に付加価値の高い素材を流出させていたことも、発覚している。
その素材は産業に広く使われる可能性がある戦略物資である一方、軍事転用も可能なため、輸出する際には、国の許可が必要とされている。
東レによれば、「東レインターナショナルの中国法人で勤務していた中国人従業員が、私利のために自身の関係している会社と取引し、売買手数料を着服しているようだ」という内部通報を受け、社内調査の結果、本来なら全て経産省に許可を得て販売しなければならない戦略物資が許可を得ていない先に流れていたことが判明し、経産省に報告。「経産省からは取引について適切な手続きに不備があったとして再発防止と厳正な輸出管理を求めることなどを内容とする警告を受けた」という。
中国の現地子会社の中国人社員に審査を一任していたことが原因だったわけだ。
現地子会社には、社内に中国共産党上海支部が結成されている。中国共産党員の学歴は博士課程修了者、大学院卒、大学卒、高卒と幅広いが、大学院卒以上の専門知識を持った高学歴の共産党員が在籍している。
戦略物資を未許可の取引先に流出させた者と、この企業の共産党員を結びつけるのは早計だとしても、こうした事実があることは、日本の経済安全保障を考える上で把握しておかなければならない。
「本気度」試される経済産業省
経済産業省は、東レに対して、貿易経済協力局・貿易管理部・安全保障貿易管理課長の名前で、行政指導の中では最も重い処分として、再発防止策と厳正な輸出管理の徹底を求める警告書を出しているとしているが、警告書一つで経済安全保障が保たれるとは思えない。
IPACの事務局長プルフォード氏は「中国にある各国の政府組織や企業に中国共産党員が多くいることは知っていたが、この名簿は初めてそれを証明した」と語っている。
日本政府も諜報活動を活発に行い、中国共産党の動きを捉え、民間企業とも危機意識を共有する必要がある。
スパイ禁止法や諜報活動を整備し、主権国家としての法改正を急ぐべきである。
(山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員/編集部)