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経済・企業 エコノミストリポート

コロナを逆手に取った期待の星 社会課題に挑むアフリカ新興企業=野村修一/ジェームス・クリア

社会課題に挑むアフリカ新興企業 生鮮流通や教育で新市場創出

 2015年から5年にわたって年率3%台の経済成長を遂げてきたアフリカは20年、過去25年で初のマイナス成長(マイナス3・04%)に落ち込んだ。21年はプラス成長が見込まれるものの、引き続き厳しい状況が続く。

 新型コロナウイルス禍からの回復に向けて世界各国が大規模な経済浮揚策を打ち出す中、財政余力のないアフリカ各国政府に取れる策は限られる。そこで期待されているのが民間企業、とりわけ、スタートアップ企業の成長力だ。

新鮮な野菜を家庭に

 アフリカでは、「インフォーマルセクター」と呼ばれる雇用形態が多数を占める。インフォーマルセクターとは、公式統計に記録されない、農地3ヘクタール未満の小規模農家、露天商や日雇い建設作業員のような個人事業者だ。ナイジェリアやコートジボワールでは全就労者の93%、南アフリカでも35・2%を占める。医療保険や社会保険に未加入で、仕事を失っても休業補償も得られない。コロナ禍は、こうした人々の生活を圧迫した。

 例えば、ロックダウン(都市封鎖)によって混乱した農産物物流。アフリカではもともと、農場から消費者まで5~6社の中間流通業者が存在するのが一般的だ。小規模農家は中間業者に言い値で買いたたかれ、代金回収が遅れることも多かった。コロナ禍で、食品は医薬品とともに優先的にトラック輸送されたものの、配送に時間がかかり、農作物の鮮度は劣化した。消費者にとっては、商品価値に見合わない物流コストが価格に重くのしかかり、生鮮食品が敬遠されがちになった。

ツィガフーズはキオスクに新鮮な野菜を届ける Twiga Foods 提供
ツィガフーズはキオスクに新鮮な野菜を届ける Twiga Foods 提供

 ここに切り込んだのがケニアのスタートアップ、ツィガフーズ(Twiga Foods)だ。14年の創業以来、農作物や食品を都市部の「キオスク(零細小売店)」と消費者に直接販売する仕組みを築き上げてきた。独自のEコマース(電子商取引)マーケットプレースを運営し、キオスクに農家から仕入れた新鮮な果物や野菜を遅くとも3日以内に届ける。消費者への直接配送もしているが、輸送コストがかかるため、ほとんどの消費者は最寄りのキオスクで購入している。

 アフリカの人々にはなじみ深いキオスクだが、インフォーマルセクターであるため、正式な統計はない。ただ、コンサルティング大手のデロイトイーストアフリカによれば、人口5388万人のケニアに10万店以上あるとされる。人口比率で考えると、日本におけるコンビニ(19年現在、人口1億2648万人当たり5・8万店)の4倍の店舗があることになる。

 キオスクのオーナーは顧客の名前、家族構成、好みまで覚えていて、需要予測の精度も高い。消費者にとっても、自宅で待ち受けなければならない割高なバイク宅配便を使うより、欲しい時にキオスクで購入できれば便利このうえない。

農家から野菜を届けるツィガフーズのトラック Twiga Foods 提供
農家から野菜を届けるツィガフーズのトラック Twiga Foods 提供

 農家にとってもツィガフーズはありがたい存在だ。中間流通がなくなったことで、価格が透明になった。さらに、農家はツィガフーズから、エム・ペサ(M−Pesa)などのモバイルマネーで即時に代金を受け取れるようになった。キオスクまで届ける効率的な配送サービスもツィガフーズから提供され、出荷・配送の手間からも解放された。

「短い流通」を実現することで、流通過程で生じる「食品ロス」という社会課題も併せて解決された。先進国の食品ロスは、小売店に並んでから消費されるまでの最下流で発生しているが、サハラ砂漠以南の「サブサハラ・アフリカ」では、食品が出荷されてから消費者に渡るまでの過程で、3分の1が廃棄されているのである。

 コロナ禍を逆手に取り、ツィガフーズは大きく業績を伸ばしている。年商は非公開だが、コロナ前の19年10月時点で8000店だった取引小売店は、20年末には3万5000店まで拡大。提携農家は4000以上に及ぶ。

 ケニアでは、コロナ感染で休業しても国からの補償はない。ツィガフーズは、コロナが拡大した20年12月、ケニアの大手保険会社であるブリタム(Britam)と提携し、取引小売店向けに「ソコ・アフィア(Soko Afya)」という名の休業補償保険を開発。キオスクのオーナーが感染・入院して休業した場合の収入補償を保険でカバーすることで、オーナーの支持を得ている。

スマホで在宅学習

 アフリカにおけるコロナ禍で、もう一つ浮き彫りになったのが、教育の問題だ。ナイジェリアのケースを見てみよう。

 国連「世界人口推計・2019年版」によると、アフリカで最多の2億人の人口を有するナイジェリアは、25年までの人口増加率が2・48%、平均年齢18・1歳の若い国だ。初等教育から大学までの生徒総数は7500万人。初等教育と中等教育において1人の教師が抱える生徒数は38人で、世界平均の23人を大きく上回っており、先生が個々の生徒に目を配れない状況になっている。

授業を受ける子供たち。アフリカでは寄宿学校の人気が高い Envato提供
授業を受ける子供たち。アフリカでは寄宿学校の人気が高い Envato提供

 ナイジェリアでは寄宿学校の人気が高く、国内の約30%が利用しているが、ロックダウンによって学校が閉鎖され、全員が在宅で学習することになった。家庭によって学習環境の差が激しく、教育機会に更なる格差が生じたのだ。

 ロックダウン下では、世界中の子供たちがオンライン授業を受けた。ただ、アフリカでは4G(第4世代移動通信規格)の普及率は必ずしも高くなく、ナイジェリアでは40%にとどまる。

スマートフォンにSDカードを差し込むだけで見られるユー・レッスンの学習コンテンツ uLesson提供
スマートフォンにSDカードを差し込むだけで見られるユー・レッスンの学習コンテンツ uLesson提供

 そうした中、教育(エデュケーション)をテクノロジーで革新する「エドテック」分野で、新しいビジネスが生まれている。19年創業のスタートアップ「ユー・レッスン」(uLesson)のサービスは、アフリカの貧しいインターネット環境下での在宅学習を可能にした。創業者は、ナイジェリアのEコマースをけん引するコンガ(KONGA)を立ち上げたシム・シャガヤだ。

 システムは簡単だ。アフリカで急速に普及するスマートフォンにSDカードを差し込むだけでいい。アフリカでは、板書を使った教師から生徒への一方向型の教育がまだまだ一般的だが、ユー・レッスンは、アニメーションをふんだんに使った1万2000の双方向学習ビデオ・コンテンツを自社開発し、提供している。

 輸入されたコンテンツではなく、各国のシラバス(授業計画)に準拠し、現地の文化や生活、言語に合ったものになっている。生徒は一人で学習を進められるだけでなく、他の生徒と一緒に学ぶこともできる。中・高校生を対象に、数学、英語、物理、化学、生物などすべての学科に対応している。

 ユー・レッスンは、ガーナ、シエラレオネ、リベリアといった周辺国にも進出を果たしている。

国ごとの市場環境に格差

 アフリカのスタートアップの20年の資金調達は、金額こそ大きく落ち込んだものの、ベンチャーキャピタル(VC)投資案件数は18年と比べて240%増の1075件になった。

 特に活況なのは、Eコマース市場だ。12年に小売市場の1%に過ぎなかったEコマースは直近で著しく成長している。サブサハラ・アフリカでは、南アフリカ、ナイジェリア、そしてケニアがEコマース3大市場になっており、新規参入も相次ぐ。

 アフリカでもっとも成功しているEコマースといえば、アフリカ11カ国の計6億人市場で事業を展開するジュミア(JUMIA)だろう。ジュミアは売り手と買い手を結びつけるEコマースの運営から、自社通販サイトへの出店企業向けの在庫管理、梱包(こんぽう)・出荷、商品のトラッキング(追跡)、返品、支払い決済までを一貫して行っている。買い手はジュミアのサイトで化粧品、ファッションアイテム、電気製品、そしてフードデリバリーに至るまで、ありとあらゆる商品やサービスを購入できる。

 Eコマースの成長とともに、配送・倉庫、委託物流など、エコシステムを形成する地場企業も活気を帯びてきている。中でも、Eコマースを支えるオンライン決済ビジネスは注目されている。

 今年3月に米国最大のユニコーン企業となったオンライン決済企業ストライプ(Stripe)は、昨年10月にナイジェリアの決済プラットフォーム企業であるペイスタック(Paystack)を2億ドルで買収した。ペイスタックは、フェデックス(FedEx)、ユーピーエス(UPS)をはじめとする有力多国籍企業を含む6万社以上の企業向けに月間数億ドルの決済サービスを提供している。

 一方で、Eコマースには課題も多い。ジュミアはルワンダ、カメルーン、タンザニアでは事業が成り立たず、市場から撤退した。消費者の元に確実に届く信用度の高い宅配システムが未整備であることなどが要因だ。アフリカでのビジネスの難しさは、一つ一つの国の市場規模が小さいことにあるが、アフリカ全土を人口12億人、GDP3・4兆ドルの巨大市場と捉えるには、各国の状況が違いすぎる。

 それでも、変化の兆しはある。アフリカではもともとクレジットカードの普及率が低く、コロナを機にモバイルマネーが急速に浸透している。今後、市場の成熟度が高まっていく可能性は十分にある。

 また、今年1月1日からアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が運用開始となった。所得の拡大を含めた全体の底上げが期待されている。原産地表示や貿易上のルール作りなど、ハードルはあるものの、スタートアップ企業がアフリカ全土を大規模商圏として捉えるための後押しになるだろう。

(野村修一・デロイトトーマツグループ)

(ジェームス・クリア)

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