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教養・歴史 書評

『沈まぬユーロ 多極化時代における20年目の挑戦』 評者・上川孝夫

編著者 蓮見雄(立教大学教授) 高屋定美(関西大学教授) 文眞堂 2750円

幾度の危機を乗り越えて EUの一層の結束を試す

 1999年に欧州単一通貨ユーロが導入されて以来、20年以上の歳月が流れた。この間、ユーロは何度も危機に見舞われたが、ユーロを支える仕組みは強化され、欧州中央銀行(ECB)も危機防衛のツールを進化させてきた。ユーロを採用している国は当初の11カ国から19カ国へと増えている。さまざまな課題を抱えつつも、簡単に消滅しそうにないユーロ。第一線の学者と民間エコノミスト6人が熱く論じている。

 誕生以来のユーロ圏は、2008年からの世界的な金融危機と、ギリシャの財政赤字改ざんに端を発する09年以降の欧州債務危機という2度の深刻な危機に見舞われた。一時はギリシャなどが離脱寸前にまで追い込まれたが、乗り切った。「ユーロを守る」ためなら何でもやると発言したドラギECB総裁(当時)の巧みな政策運営や、EU(欧州連合)経済を維持する強い政治的意思と連帯の精神がユーロの信頼を支えてきたとの指摘もある。

 ユーロ圏は今また新型コロナウイルス感染拡大という、欧州統合史上最大の危機に直面している。ここでもEUは、復興基金の創設やユーロ共同債の発行を決めた。興味深いのは、これまで緊縮財政に拘泥してきたドイツが同意したことだ。このドイツの「突然の変身」の背景には、ドイツ型新自由主義の後退とケインズ主義の影響の広がりもあるという。

 国際通貨としての役割では米ドルの後塵(こうじん)を拝してきたユーロだが、それにも変化がみられる。例えば、米国の対ロシア制裁も影響して、ロシアの対EU輸出ではユーロ決済が増加し、ドル決済の割合が低下している。ロシアの対中輸出でも、人民元決済の割合はなお低い半面、ユーロ決済が伸びている。ユーロが世界的なドル支配を脅かす存在になるかは不透明だが、EU当局はユーロの国際的役割の強化に乗り出している。

 しかし、ユーロ圏が抱えている課題は少なくない。復興基金はコロナ禍に伴う特例措置であり、EUの財政調整能力の強化には程遠い。域内格差の解消や構造改革は進んでおらず、銀行同盟や資本市場同盟も完成していない。米中の覇権争い、EU離脱後の英国の動き、さらにデジタル通貨競争なども、ユーロの今後に影響する。

 ユーロの長期的安定のためには、EUの政治統合が不可欠との指摘もある。世界の地政学的分断が進む中では重みを増しそうな構想だが、EUは一層の結束を図れるか。ユーロを巡るさまざまな力学を読み解くうえでも格好の書物である。

(上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)


 蓮見雄(はすみ・ゆう) 全体編集と「中ロ接近とユーロ」の章の執筆担当。著書に『拡大するEUとバルト経済圏の胎動』(編著)など。

 高屋定美(たかや・さだよし) 全体編集と「国際通貨としてのユーロの可能性」の章の執筆担当。著書に『検証 欧州債務危機』など。

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