教養・歴史書評

『お金で騙す人 お金に騙される人 「金融・経済」詐欺の事件簿』 評者・後藤康雄

著者 ベン・カールソン(リソルツ・ウェルス・マネジメント資産運用ディレクター) 訳者 岡本千晶 原書房 2750円

なぜ人はだまされるのか 資産運用専門家が多様な事例紹介

 私たちにはだまされる快感とでもいうような感覚がある。いくら目を凝らしても種がわからない手品に感嘆し、読者や観客を巧妙に欺く小説や映画などを堪能する。しかし、本物の詐欺師にだまされるのはご免である。本書は、経験豊富な資産運用の専門家が、自らの教養をまじえ金融詐欺を語った書物である。

 今日、特殊詐欺への警告をメディアで頻繁に目にする。それでもなお高水準の件数が続く現状を不思議に思う向きがあるかもしれない。しかし、本書には、分別も経験も十分ある常識人たちがあっさりペテン師にだまされてしまった事例があまた紹介されている。近年も、実体のなかった先進技術でもてはやされた米国のベンチャー企業・セラノスが多大な損失を投資家に与えた。その過程では現米国大統領のバイデン氏も同社を称賛していた。

 著者は、金融詐欺をめぐっていくつかの角度から条件を整理する。まずひとつはだまされる私たち自身である。一言でいえば、我々はもともとだまされやすいということである。詳細は本書に譲るが、誰しも多かれ少なかれ欲を持っているという、その一点だけでも素質は十分なのだろう。

 だます側の整理もされる。筆者はペテン師を二つに分類する。ひとつはもともとだますことを目的とする悪人たちで、もうひとつは本人も偽りの内容を信じてまい進する、結果的な詐欺師である。特に後者は本人として“誠意をもって”詐術を働くので難儀となる。

 詐欺が成立しやすい状況もいくつか示される。当事者の要素だけでなく外部環境も重要なお膳立てとなることがわかる。ここでも難しいのは、バブル時に顕著な、詐欺と正当な取引の間の大きなグレーゾーンである。リアルタイムでのバブルの識別が難しい以上、一般論として理解していても陥穽(かんせい)にはまりかねない。

 最後に、詐欺の可能性を示すサインも挙げられる。いずれも言われればもっともなものばかりだが、例えば「相手が自分の望んでいることをずばり言ってくれる場合」に、一分の隙(すき)も突かれない自信を我々はどれだけ持てるだろうか。

 紹介される事例は欧米中心だが、世界的著名人が多く(彼らがだまされたのが驚きだ)、興味深く通読できる。本書を読めば詐欺にひっかからなくなるとはいわない。しかし、自衛力は向上するはずだ。往年のアカデミー賞作品『スティング』での詐欺師らの活躍に留飲を下げるのは、映画の中だけにとどめておきたい。

(後藤康雄・成城大学教授)


 Ben Carlson リソルツ・ウェルス・マネジメントの機関投資家向け資産運用ディレクター。金融をテーマにしたポッドキャスト、ブログで高い人気を博している。

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