映画 茜色に焼かれる 社会的弱者の現実と闘い描く 本邦初の「コロナ時代」映画=寺脇研
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この映画は、コロナ禍が広がった後に作られたものだ。石井裕也監督は、昨年夏に話を思いつき一気に撮り上げたのだという。全国規模の公開作品では、これがおそらく初めての「コロナ時代」映画となる。市街場面で通行人が皆マスクを着けているのは、これまでスクリーンになかった情景だ。
全編を通して、2020年から21年にかけての日本社会の実相が鮮烈に描かれる。この1年余り、誰しもが自らの生活や人生観の変化を体験しただろう。その激動の時期を、こうして劇映画の形で物語体験してみると、改めて、今現在進行形であるこの時代の空気がひしひしと伝わってくる気がする。現時点のわたしたちの社会の姿を客観的に見つめようと思うなら、必見の一作と言っていい。
ヒロインはシングルマザー。中学生の息子と二人暮らしである。夫は、7年前突然の交通事故で死んだ。加害者は元高級官僚の老人、そう、まだ記憶に新しいあの事件と同じく「上級国民」との扱いの違いは露骨で、それに納得できない彼女は賠償金を拒絶して意地を貫く。そんな階層化する社会の苛酷な現実が、この物語の大前提として横たわる。
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週刊エコノミスト
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