大手から個人まで 沸騰! 不動産投資=中園敦二
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「神戸市の一等地にあるマンションに投資しませんか?」
都内のITベンチャー経営者が、こんな勧誘を受けたのは昨年10月。信用金庫から1000万円の融資を受けたと、この不動産会社の友人に話すと、間髪入れずに勧められたという。
「今なら低利で追加融資を受けられます。3000万~4000万円の投資で、すぐに売り抜ければ1000万円は稼げる」。「興味がない」と断ったが、数日後「都内にいい物件が出た」と再び勧められた。(狙える不動産)
「1万円から」投資
インターネット上で不特定多数の個人から資金調達するクラウドファンディング(CF)。これを不動産投資に活用する不動産CFの件数や出資募集額が、それぞれ2019年度は前年比4倍、2・7倍へと急増している(図1)。「スマートフォンで少額から投資ができて簡単」と、個人投資家が増えているのだ。
従来、個人の不動産投資は賃貸用マンション・アパートか、J─REIT(リート)(上場不動産投資信託)ぐらいだった。現物不動産は多額の資金とオーナーとして資産管理が必要。J─REITは小口資金で投資できるが、地銀や外国の機関投資家が入り込んできたため、結果的に個人がはじかれた格好になっている。
そこに登場した不動産CF。一般的に運用期間は3カ月~3年ぐらいで、賃料収入や物件売却益を配当する。予定利回りは年3~5%程度だ。17年の不動産特定共同事業法(不特法)改正により、事業者の資本金要件などが緩和されて不動産CFの参入者が増えた。
元サッカー選手(ジェフユナイテッド市原・育成選手)でGAテクノロジーズの樋口龍(りょう)社長CEO(最高経営責任者)は「サイト登録会員が10万人を突破したが、まだまだ」と、コロナ禍1年で会員6割増に満足していない。同社は、中古住宅について「借りる」「買う」「売る」「貸す」「投資する」をワンストップで提供する不動産テックサイト「RENOSY(リノシー)」を運営する。IT技術を活用して2000万円程度の投資用中古マンションを販売するのが主事業だが、約3年前から1口1万円の不動産CFも手掛ける。顧客層は、主婦や高齢者など幅広いという。
また、金融商品取引法に基づいたCFで不動産を取り扱っているのは、野村総合研究所とケネディクスが合弁で設立したビットリアルティだ。機関投資家でしか投資できない私募ファンドを個人に提供するのが特徴である。他の事業者と比べて1口10万円以上とやや高く、顧客は40代が中心。今年3月の新規会員登録は前年同月に比べて約3倍になったという。
谷山智彦副社長は「『倒産隔離』の仕組みを取り入れているため、当社が万が一、破綻しても顧客資金は守られる」と話す。
募集直後に瞬間蒸発
コロナ禍で巣ごもりの個人投資家が増え、CFの募集を開始するとすぐに満額になる瞬間蒸発が多発している。不動産会社のトーセイはCFが満額となったときに備えて「補欠当選」の仕組みを導入して、キャンセル待ちができるようにした。
全国の不動産投資市場規模について、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の試算によると、賃料収入を得られる「収益不動産」の資産規模は約272兆円で、うち機関投資家向け「投資適格不動産」は約171兆円だ。J─REITと私募ファンドが証券化した市場は計44兆円規模で、収益不動産の16%にとどまる。ニッセイ基礎研の吉田資(たすく)主任研究員は「米国は4割が証券化されており、日本には拡大の余地がある。J─REITや不動産CFがさらに伸びるだろう」と予想する。
虎の子放出
一方で、企業間の大型物件の売買も活発化し…
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週刊エコノミスト
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