接種率3割超もまだまだ不自由なドイツの日常生活・福田直子
ワクチン開始も不自由が続く 接種者「3割超」ドイツの現状
ドイツでは昨年の11月から続いていたロックダウン(外出制限や経済活動休止を伴う規制)が5月12日からようやく緩和されつつある。
5月6日の時点では全国の「直近7日間の人口10万人当たりの新規感染者数」が118であった。それが5月半ばには16州のうち3州を除いて83ほどに下がった。わずか10日前には1日の新規感染者数が2万人を超えていたのがようやく1万人を割ったのである。
筆者の住むミュンヘンでは、ロックダウンが緩和された初めての週末、「待ちに待った」とばかり、まだ肌寒いにもかかわらず、多くの市民たちがコートやジャンパーを着込んでビアガーデンに向かった。ただし、入り口では厳しいチェックが行われ(写真1)、周辺がすべて柵で囲まれていた(写真2)。入り口以外からは入れないようになっており、昨年の同時期のロックダウン緩和とは違い、解放感が感じられない。
接種者にのみ「自由」
ロックダウン緩和といっても、国民の過半数以上にワクチン接種が行き渡らない限り、急激な緩和が避けられているためだ。
それにしても実に、長いロックダウンであった。
昨年、11月2日からレストランやカフェはすべて閉鎖。日本のような「緩い緊急事態宣言」とは異なり「時短営業」はなく、12月半ばからは食品店やスーパー、薬局、銀行など生活に必要な店舗以外、文化関連施設、およびスポーツジムなどがすべて閉鎖された。
今年、1月からはマスクの種類も手術用に使用されるEU(欧州連合)規格の高性能「FFP2マスク」と指定され、公共交通機関の利用や買い物の際には指定マスク着用が義務づけられ、違反した場合は罰金が科せられた。また、日常生活では1世帯につき何人まで会ってよいとか、夜間外出禁止はいつまでとか、時間帯はどうかとか、個々の対策がときおり変更され、細かいところで常に注意する必要があった。
ロックダウン緩和後の今も、約半年ぶりに再開されたレストランやビアガーデンでは、外での飲食に限ることがほとんどだ。しかも、入り口で「ワクチン接種済み」、あるいは「コロナ感染者で完治」、あるいは「コロナ陰性」である証明書を提示しなければならない。ワクチン接種がまだの場合、あるいは治癒したコロナ感染者でない場合、その場で簡易検査をされ、陰性であることを証明する必要がある。
上記の三つのうちのどれかにあてはまらない場合は自由に出入りができないという「不自由」があらたに加わり、昨年の同時期のロックダウン緩和とは大きな違いとなっている。
つまり、この対策は、ワクチン接種を受けた者には自由を与え、受けていない市民には積極的にワクチン接種を受けるよう促す試みでもある。
おそるおそる始まったロックダウン緩和と商業活動の再開も今後、コロナ変異型ウイルスがどう広がるかによってデータの変動をみながら、手探り状態にある。
昨年末からワクチン接種が始まったドイツだが、当初はEUを通じたワクチンの確保がままならず、その後も混乱が続いていた。
5月中旬時点で、ようやくドイツの成人の10人に3人が1回目のワクチン接種を、10人に1人が2回目のワクチン接種を終えた。英オックスフォード大学が運営するウェブサイト「Our World in Data」によると、1回以上接種を受けた人の割合は5月16日時点で総人口の36・8%。接種数が増えたのは、大規模なワクチン接種センター以外に、開業医での接種が4月から進み、接種は6月までにさらに加速される予定だ。それまでには1回目のワクチン接種を受けるのは国民の半分以上ということになる。
公的保険医師会中央研究所(ZI)の推定では、8月15日までにはワクチン接種数が8000万人分に達する予定であるというから、ドイツの成人の大多数が少なくとも1回目のワクチン接種を受けることになる。
データ分析で知られる英エアフィニティー社の予測では、ワクチンは今年夏から来年の1月までに、EU諸国、スイス、イギリス、カナダ、日本など先進国には十分に行き渡るという。アメリカではワクチンが余るという地域もあり、ニューヨークでは観光客にも接種をしている。
しかし、いくら厳格なロックダウンやコロナ感染対策を行ったところで、世界中でワクチン接種が進まないかぎりコロナ感染を抑え込むことはできない。現在、世界の「最貧国地域」では人口のわずか1%しかワクチン接種が進んでいないという。
「特許放棄」で猛反発
そこでバイデン米大統領は、ワクチンを開発している企業に対し、「特許を手放し、他企業にも製造させることでワクチンの製造の大量生産を進めてはどうか」という提案をした。これには米ファイザー社と協同で、世界で最初にmRNA(メッセンジャーRNA)を利用したワクチン開発に成功した独ベンチャーのビオンテック社だけでなく、独メルケル首相(写真3)も激しく抵抗した。
「供給が追いつかないのは、現時点でワクチンの生産量をむやみに増やすことはできず、高い品質を保っているからであって、特許のせいではない」とメルケル首相の広報担当者はコメントしている。通常、認可された薬品の特許は20年継続され、それが切れるとはじめてジェネリック(後発性)製品として他社も製造することが可能となる。パンデミックとはいえ、1年で特許を放棄するということは売り上げを次の研究費用に回したい製造側としてはもってのほかというしかない。
コロナワクチンに関しては、処方だけでも数百ページある複雑な製造工程と技術をすぐに移転することは極めて難しく、なによりも品質が保証されない可能性がある。5月初めにシンガポールの生産拠点を設けると発表したビオンテック社であるが、実際に稼働し始めるのは6カ月から9カ月後となり、現時点では輸送のための「特殊なバイオバッグ」も不足している。
2008年にスタートアップ企業としてマインツに設立された独ビオンテック社は、もともとmRNAをがん研究に利用する研究を行っていた。
昨年1月にビオンテックのシャヒン社長が医学誌の「ランセット」で中国の新種のウイルスについて読んだことから、コロナワクチン開発に社を挙げて全力で尽力することを思いついたというが、ビオンテック社を設立したがん研究者夫妻の本来の目標はmRNAを利用したガンの撲滅にある。
なお、シャヒン氏は、「コロナ・パンデミックは10年続く」とし、長期的な視野でコロナ感染を抑え込む必要があるとみている。
コロナとの闘いはまだまだ続きそうである。
(福田直子・在独ジャーナリスト)