平穏の陰の不穏を描きつつ より深い陰翳に手を伸ばす=芝山幹郎
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映画 逃げた女 平穏の陰の不穏を描きつつ より奥深い陰翳に手を伸ばす
そよそよと風が吹いているような気がする。鳥の鳴き声も、かすかに聞こえてくるようだ。ただし、快晴ではない。強い光と濃い影が交錯するわけでもない。むしろ薄曇りだ。風景は穏やかで、出てくる人々もおっとりして見えるが、どこかに陰翳が蹲(うずくま)っている。
ホン・サンスの新作「逃げた女」には、そんな気配が漂う。あ、またか、と感じる人はいるかもしれない。平穏の陰の不穏という表現に赴く映画作家は、世に少なくないからだ。ただ、ホンの場合は、それと一緒くたにできない。
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