教養・歴史書評

バブルが起きる根源は「金利<成長率」にあると説く

『バブルの経済理論 低金利、長期停滞、金融劣化』 評者・土居丈朗

著者 櫻川昌哉(慶応義塾大学教授) 日経BP 4950円

過大評価された貨幣と国債 日本弱体化をたどる編年史

 新型コロナウイルス禍の中で、経済活動が抑えられているにもかかわらず、世界的に株価は上昇している。それが、ファンダメンタルズ(経済の本質的価値)を超えた株価上昇なら、バブルが生じていることになるが、果たしてどうだろうか。

 本書を、8年かけて執筆したと著者は述べている。コロナの前から企画されたが、コロナ禍の今でも含蓄のある読み物になっている。

 バブルはなぜ生じるか。本書でその理由として強調するのは、低金利である。特に、経済成長率よりも低い金利である。主流派の経済学が、必ずしも目下起きている経済現象をうまく説明できていないのは、成長率よりも高い金利である状況を分析しているからである。そして今の経済では、ゼロ金利である。

 我が国で「バブル」というと、株式や不動産を想起するが、1980年代後半のバブル(本書でもその核心を見事に描写している)が崩壊した後、我が国ではバブルと無縁かというと、そうではないかもしれない。

 経済理論から、本書で導き出しているのは、貨幣のバブルである。貨幣価値が止めどなく上がり続けることは、一般物価水準の持続的な下落、つまりデフレーションを意味する。さらには、日本銀行の量的金融緩和によって、貨幣と引き換えに買い入れられている国債も、同等のものとして価値が過大評価されていると考えられる。国債価格の上昇は国債金利の低下を意味する。過大評価されたものは、評価が揺らげば、たちまちその価値は下落する。今日まで国債金利はゼロでデフレだったものが、明日には反転するかもしれない。

 本書の深い洞察は、バブルの発生と崩壊だけにとどまらない。日本経済が90年代以降低迷した核心に迫っている。バブルは、低金利だけでなく、金融市場の不完全性にも起因する。情報の非対称性や過度な金融規制などがあって、資金の需要と供給が円滑に調整できないと、需給の不均衡を補うようにしてバブルが生じる。目下、貨幣や国債への過大な需要がそれを補っている。金融機能の不全が、そうした事態を引き起こす。

 著者は、こうした我が国の金融の劣化が、長期停滞をもたらしたと喝破する。さらには、円の国際化を怠った「不作為の罪」が、円高に脆弱(ぜいじゃく)な経済構造にし、「需要不足信仰」による度重なる景気刺激策を助長し、市場規律を弱め、日本経済を弱体化させた。この指摘は、本書の題名を超えて、極めて含蓄がある。こうしたバブルの編年史は、物語として読者を引きつけるに違いない。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 櫻川昌哉(さくらがわ・まさや) 1959年福井県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。名古屋市立大学大学院経済学研究科教授などを経て現職。著書に『“円”国際化で日本は復活する』『金融危機の経済分析』など。

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