教養・歴史書評

『サステナブルファイナンス攻防 理念の追求と市場の覇権』 評者・平山賢一

著者 藤井良広(環境金融研究機構代表理事) きんざい 2530円

持続可能な社会の実現に向け 現場のリアルな攻防描く

 われわれは「環境金融」「ESG投資(E:環境、S:社会、G:ガバナンス等の非財務要因に注目した投資)」「サステナブルファイナンス」と聞いて、「何か良さそうだ」というイメージを抱くのではないだろうか。しかし本書は、この幻想を現実に引き寄せる利害関係者の攻防戦を描いた異色の書である。「サステナブル」(持続可能な発展)をめぐり錯綜(さくそう)する人々が、理念や思惑により「ざわつく」現場をリアルに記しているからである。

 著者は「環境金融論」の研究者でもあるが、ジャーナリストでもあっただけに、その筆致の鮮やかさは追体験するに十分な臨場感をもって迫ってくる。これほどまでに駆け引きと利害の対立に満ち溢(あふ)れていたかと、読者は驚きを禁じ得ないだろう。

 具体的には、米トランプ政権下で主軸を担った欧州諸国と中国、さらにバイデン政権誕生による米国の巻き返しなど各国・地域間の主導権争いに加え、国境を乗り越えて理念を重視する「サステナビリティ派」も入り乱れ、有利な基準化を求めての攻防が繰り広げられているという。

 さらに「サステナビリティ派」も、サステナビリティを新規の事業機会として扱う「ビジネス派」、厳格に追求する「理念派(規範派)」、そして非財務要因を財務要因と統合して価格づけを目指す「市場派」に分かれると整理する。本書は、この乱雑な関係を、少しずつ解きほぐしてくれるから、大変にありがたい。

 ところで、一部企業や金融機関において、気候変動に係るリスクや収益機会について開示することが求められており、その基準となるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)についての関心が高まっている。気をつけなければいけないのは、このような基準が、どのような経緯で定められてきたのかという歴史を、われわれはあまりにも知らないという点である。グローバル金融危機以降の十数年間で、加速度的に議論されてきた内容だけに、体系的な教科書が存在していないからだ。しかし、じっくりと腰を据えて、流れを整理した上で開示しないと、足元をすくわれる可能性がある。

 現在、われわれはグローバルパンデミックに直面し、政府、市場、企業間の緊密なパートナーシップが、より求められる時期にある。同様に地球市民の長期的課題を解決するためにも、サステナブルファイナンスをめぐる立場と利害の対立を克服していく必要があるのは言うまでもない。そのための現状把握の一歩としてぜひ活用したい一書である。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 藤井良広(ふじい・よしひろ) 神戸出身。大阪市立大学卒。日本経済新聞経済部編集委員、上智大学教授を経て現職。CBIアドバイザー等も兼務。著書に『環境金融論』『金融NPO』など。

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