投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く③鎌倉投信(下)投資事業組合「創発の莟」で「いい会社」への投資を非上場企業にも広げていく

    鎌倉投信は、非上場企業を対象とした投資事業組合「創発の莟」を4月に立ち上げた
    鎌倉投信は、非上場企業を対象とした投資事業組合「創発の莟」を4月に立ち上げた

     公募投信「結い 2101」の運用を五十嵐さんに任せたことで、鎌田社長はこの4月から、創業時からの目標の一つだった、非上場企業の投資にも乗り出した。フューチャーベンチャーキャピタル(京都市)と共同で、投資事業組合「創発の莟(つぼみ)」を立ち上げ、6月2日に第1号案件として、保育園をDX(デジタルトランスフォーメーション)で改革していくユニファ(東京・千代田区、土岐泰之・代表取締役)への投資を決定した。

    上場、非上場を問わず「いい会社」を応援

     鎌田社長は、「『結い 2101』の運用を始める前から、独自の視点でいい会社を応援していく投資の枠組みを作ろうと考えていた。そもそも、いい会社は上場企業に限らない。非上場でも優れた経営をしているところはたくさんある。上場、非上場を問わず、いい会社を応援していきたいというのが、元々の精神」と語る。

     しかし、公募投信の「結い 2101」では、一部、非上場企業の社債を購入しているものの、時価が公表されていない非上場株の組み入れは、顧客の資産を毎日時価評価する必要があるため、難しかった。顧客の換金売りにすぐに対応できる流動性もない。

    既存のベンチャーキャピタルのあり方に疑問

     一方で、既存のベンチャーキャピタル(VC)のあり方に対しても、疑問を持っていた。VCの主流のビジネスモデルは、3~5年の短期間で成長する「ユニコーン企業」に投資し、IPO(株式公開)やM&A(企業の合併・買収)を通じ、早期に投資資金を回収するというもの。10社に1社がIPOなどで資金の回収に成功すれば、残りの9社は「お役御免」となる。

    社会福祉や地域再生型企業に投資

     だが、鎌倉投信が応援したいのは、社会福祉、地域再生型や農業分野など、もともと、短期間のIPOには向かないところ。上場を前提としない出口戦略もあるのではないかと考えた。

     例えば、ベンチャー企業を設立し、5~6年が経過して黒字が定着してきたら、銀行に融資してもらい、そのお金で投資事業組合の保有している株式を割当価格の1・5倍程度で買い戻してもらう。あるいは、社員や地元の自治体に株式を割り当てる方法もある。

    「投資先企業の成長性と、出資元の投資戦略をなるべくマッチさせたい。10社のうち、1社が上場し、9社が消えるのではなく、逆に9社がきちんと存続するような支援ができないか」というのが、「創発の莟」設立の趣旨だ。

    パートナーにサイボウズや北國・横浜銀行

     創発の莟には、出資者(有限責任組合員)として、サイボウズ、ソウルドアウト、北國銀行、横浜銀行の4社が参加した。サイボウズは投資先企業の組織づくり、ソウルドアウトはマーケティング・ブランド・DX戦略で協力を仰ぐ。北國、横浜の地銀2行は、投資先の発掘のほか、「地元の経済基盤の中で、事業シナジーを生むような取り組みを期待」している。

     投資先の評価軸は、「人・共生・匠」の「結い 2101」と基本的に変わらない。ただ、若い会社が対象なので、「どちらかというと社会創発性、つまり、会社単体として成長して価値を生むよりも、その会社が成長することで、社会にいろんな構造変化を生むような『プラットフォーム型』の事業などを選んでいく」と話す。

    保育園をDXで支援

     第1号案件となったユニファは、保育園をDXで支援する会社だ。例えば、子供が寝ているときの体温や呼吸のモニタリングの自動化。保育園でのうつ伏せ死が社会問題化したが、その事故を未然に防ぐ。また、保育士と保護者の間の連絡帳のデジタル化。保育園での活動の様子を写真に収め、自動的にウエブに掲載し、家庭と保育園のコミュニケーションを密にする。

     狙いは、保育士と保護者の負担軽減だ。「保育園は労働集約型の仕事で、給料も良くなく、人の入れ替わりも激しい。保育分野は女性の社会進出でも非常に重要。DXにより、社会全体にかかるストレスを改善していく」(鎌田社長)。

    構造変化を促す企業を見い出す

     ユニファには1億円を出資した。現在、もう1社に出資することが決まっており、今年度内に計5~8社に増やす予定だ。そのほかには、どのような企業がありうるのか。

    「重要なのは構造変化やゲームチェンジ。環境は脱炭素の流れの中で、次のエネルギー政策をどうするのか。農業は担い手不足のところでどう生産性を上げていくのか。いわゆるスマート農業だ。中小企業の後継者不足も深刻だ」

    女性の社会進出もテーマに

    「今回のコロナで露呈した医療の現場の生産性の低さをどうするのか。遠隔医療もその延長にある。女性の社会進出ということでは、女性の健康管理がある。こうした社会課題領域の先端部分にメスを入れる会社が増えてくれるとよい」

     ファンドの総額は現在13億円だが、来年3月までに25億円にまで規模を拡大する予定。その過程で、金融機関3行程度に新たに出資者として加わってもらいたいと考えている。

    鎌田社長は、コロナによる社会や経済の変化は20年~30年の単位で続くかもしれないと見ている
    鎌田社長は、コロナによる社会や経済の変化は20年~30年の単位で続くかもしれないと見ている

    コロナ後も変化は20~30年に渡って続く

     取材の最後に、コロナ後の社会・経済について、見通しを語ってもらった。鎌倉投信は、経済や相場予測に基づいた投資をしないので、あくまでも鎌田社長個人の見解になる。

    「コロナで社会情勢が一変したと言われるが、私は正確に言えば、新しく変わったものは何もなく、すでにあった変化、あるいは水面下にあった変化、特にデジタルシフトが、一気に加速、表面化しただけと見ている。IBMが量子コンピューターを3年以内に商品すると報道された。コロナによって、そういうものが射程圏内に入ってきた」

    「かつてのモノづくりの産業革命と違って、デジタル革命は、応用範囲がものすごく広い。医療もそうだし、働き方、農業、環境もそうだ。それによって、生産性の向上が非常に幅広い分野で起きるのではないか」

    「同時に、モノの概念が変わってくる。例えば、トヨタが取り組んでいるスマートシティがそうだが、車は単なる移動手段ではなく、地域を支えるための情報通信の集積地になる。車であって、車でない」

    日経平均の3万円は通過点の可能性

    「この変化はもしかしたら、5年、10年ではなく、20年、30年という期間に渡って起こるかもしれない。モノの概念も、色んなモノの生産性も飛躍的に変わってくるし、それとともに、人の働き方、地方と都会の関係性もいろいろと再構築されてくる」

    「そうなった時に、日経平均で3万円が高いのか、安いのか。巨大な情報通信革命のど真ん中にいるということを考えれば、多分、通過点であろうと。高くはないのであろうと。そうした波に乗っている企業は、すごく順調だ」

     個人投資家も、その波に乗る準備が必要かもしれない。(稲留正英・編集部)

    (終わり)

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