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週刊エコノミスト Online ワイドインタビュー問答有用

シンガー・ソングライターのあがた森魚さんに聞く「ギターを背負って歩く練習」を続けるワケ=大宮知信

「来年のデビュー50周年を機に、これまでの足跡を本にまとめたいな、と思っています」 撮影=蘆田剛
「来年のデビュー50周年を機に、これまでの足跡を本にまとめたいな、と思っています」 撮影=蘆田剛

「ギターを背負って歩く」=あがた森魚 シンガー・ソングライター/849

 1970年代初頭、大正ロマンの哀愁漂う「赤色エレジー」で鮮烈デビュー。ジャンルを越えたコンテンポラリーな楽曲を発表し続ける現代の吟遊詩人は、今なお新たな表現の領域を広げ続けている。

(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)

「前衛の遊ぶ場所を残せたら、それが一番の財産」

「『11PM』に下駄を履いていったら大橋巨泉さんにちゃかされて、歌ったのが『赤色エレジー』でした」

── 東京都北区の飛鳥山公園で「ギターを背負って歩く練習」という奇妙なイベントをたびたび開催していますね。

あがた 新型コロナウイルスが感染拡大してから、一に歌わない、二に家にこもる、三に体を動かさない、しかも収入にならない。悪いことずくめです。昨年6月ごろ、台湾の友人が帰国するというので、じゃ散歩でもしようと、何となく飛鳥山公園へアジサイを見に行ったんです。ギターを持ってね。でも、折からギターなんか背負って歩くと、すごく印象が悪いんです。(ワイドインタビュー問答有用)

── ライブハウスで演奏するわけじゃないのに、色眼鏡で見られてしまうんですね。

あがた 単にオレは、なまっている足腰を鍛えるため、ギターを背負って歩く練習をするだけだ、と。そして、もしヒマなやつがいたら来いよと、何人かにメールをしたんです。夕方ごろ、2人来て、3人で散歩したのが、昨年の6月26日だった。「ギターを背負って歩く練習」という勝手なタイトルを付けて、音楽をやりたいやつが集まって、音楽で何ができるのか試してみよう、という非常に安直な問いかけだね。

── それで一般の人にも参加を呼び掛けたというわけですか。今年3月の10回目のイベントには映画監督の森達也さん、シンガーの三橋美香子さんもゲスト出演しました。

あがた 表現性というと硬い言い方になるけど、何かを形作りたいという妄想に駆られている人は、誰でもいいからおいでと。公園は広いので、子どもたちが遊ぶ広場もあるし、小さなステージもある。ギターを持って来られる人は持ってきて、オレはオレで何人かとアンサンブルするけど、あんたたちも何かやれよと。ギターを持って来られる人は持ってきて、一緒に遊ぼうよ、ということです。

── 昨年12月26日には、敬愛する作家、稲垣足穂(1900~77年)の誕生日に、「イナガキタルホ 祝★生誕120年祭」として「ギターを背負って歩く練習」を開催しましたね。

あがた 生きていれば足穂さんは昨年で120歳だから、飛鳥山での集客目標も一応、120人にしたんだけど、実際に集まったのは100人ぐらいでした。当日は「現象」に対する「仮象」という足穂さんの概念を表現しようと思って、赤いスクリーンの前に脚立を立てたんです。そこにちょうどお日さまが照ってきて、脚立がアルファベットのAの形に映るわけね。

 それを足穂さんのシンボルとして、脚立のAが現実のAで、赤いスクリーンを通して映るAの影が僕らにおける仮象のAであると。稲垣足穂は“タッチとダッシュ”という言い方をするんですが、つまり現実をAと呼び、そこに映し出される影をAダッシュと呼び……。

── いやー、なんか難しいですね。

あがた タッチとダッシュはこうだと飛び上がって見せたり。演奏もやりながら、少しずつ分かるような分からないようなことを言って(笑)。彼に引かれる理由は説明しづらいけど、ま、虚無感だよね。彼の明るくて未来を向いている虚無感というか、朗らかな未来に向かうデジャブ(既視感)と言ったほうが分かりやすいかな。

「最後」のアルバム

 2011年の東日本大震災…

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