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住宅が買えない!バブルを警戒する声も=岩田太郎

1984年以来の高成長率が見込まれる米国経済。コロナ禍からの回復への自信と低金利で人々の間には過度の楽観が広がっている。投資対象としての値上がり期待から住宅価格が高騰し、一般市民にとり取得困難な水準と指摘されている。金融当局者の間では住宅市場の過熱感への不安の声も出てきた。

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 ワクチン接種の広がりで、米国では経済活動が本格的に再開し、マスクを着用せずに外出する人々が増え、生活がコロナ前の状態に戻りつつある。そうした中で、不動産の活況についての記事や専門家のコメントを多く目にするようになってきた。しかし、喜んでばかりではいられないような内容がほとんどだ。

 「現在、都市部で売りに出される一戸建て住宅は、取得のための戦争のような状態だ。最も多く現金を支払える者が勝つ」。米不動産業界を30年近く間近で観察してきた著名ウォッチャーのピーター・レイン・テイラー氏は、米フォーブスのコラムでワクチン接種が進む米国における住宅市場の状況について、こう説明する。

 S&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)は4月に前年同月比14・9%上昇し、リーマンショック前の住宅バブル期である05年12月以来の上昇率を記録した。手頃な価格帯の住宅物件は手に入りにくくなっている。テイラー氏は「市場が過熱していないと論じるのがますます非現実的になっている」と指摘する。

世界で最も安全な国・地域の番付で米国が1位に

 こうした不動産市場の盛り上がりは、米国のワクチン接種の拡大に伴う力強い経済成長が背景にありそうだ。7月4日の独立記念日までに全成人の70%に1回目接種を受けさせる目標にはわずかに届かなかったものの、ブルームバーグが発表する世界で最も安全な国・地域の番付「COVIDレジリエンス(耐性)ランキング」で首位となった。

米経済は7%成長へ

 米経済専門局のCNBCは7月2日、「6月の雇用統計の大幅な改善は、ワクチン接種の普及による経済再開によるところが大きい」との見解を示している。ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁は6月21日、「今年の米経済の成長率は、インフレ調整後で7%に達する可能性がある」と予想。バイデン大統領も独立記念日の演説で、ワクチン配布を柱としたコロナ対応による経済回復の成果を強調した。

米ニューヨークのタイムズスクエア
米ニューヨークのタイムズスクエア

 ブルームバーグのコラムニストであるコナー・セン氏は20年12月1日付の評論で、「この先6カ月でワクチン接種が本格化すれば、米住宅市場の需給がさらに引き締まる。コロナ禍から米経済が回復するにつれ、4~6月期に住宅価格は12%ほど上昇しているだろう」と予測していたが、ほぼその通りの展開となっている。

住宅供給不足も

 パンデミック以前から存在した住宅の供給不足が価格上昇を加速させたとの見方もある。米オンライン不動産大手レッドフィンのチーフエコノミストであるダリル・フェアウェザー氏は「コロナ禍以前から、十分な数量の新規住宅建設ができていなかったため、需要が供給を上回っていた」と語ったと報道されている。

 需給逼迫に輪をかけたのが連邦政府の財政出動による景気刺激、米連邦準備制度理事会(FRB)のゼロ金利政策に起因する3%台の歴史的に低い住宅ローン金利、オンライン不動産のテクノロジーによる売買期間の短縮など効率化だ。低金利下で投資対象としての購入の動きも住宅価格の押し上げ要因となった。

「現在の住宅価格は怖い水準」

 こうした中、マクロ経済学者や金融当局者の間では、加速する住宅市場の過熱を心配する声が出始めた。ハーバード大学教授のサマーズ元財務長官は7月3日、米メディアとのインタビューで「現在の住宅価格は怖い水準だ」と語った。ボストン地区連銀のローゼングレン総裁やダラス地区連銀のカプラン総裁、セントルイス地区連銀のブラード総裁など一部のFRB高官も、高騰する住宅価格に憂慮を表明している。未曾有の財政支出と低金利のゆがみが、住宅市場にはっきりと浮き彫りになっている。

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(岩田太郎・在米ジャーナリスト)

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