教養・歴史書評

コロナ禍が「密」→「疎」なら、こちらは「疎」→「密」だ=新藤宗幸

『つながり続ける こども食堂』 評者・新藤宗幸

著者 湯浅 誠 (NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長) 中央公論新社 1760円

少子化と地域衰退にあらがう“誰も排除しない”新しい場所

 子供をめぐる問題状況が日々マスコミをにぎわせている。児童虐待など一つの典型だが、社会的病理として捉えたものが多い。確かに、コロナ禍のなかで子供たちの置かれた状況は厳しい。全国一斉の学校閉鎖時には、居場所も食事の機会も失った子供が多数に上った。

 こうしたなかで市民の自主的な活動として全国各地で「こども食堂」が営まれている。本書は、こども食堂の最も良質な部分に焦点を当て、現状を述べるだけでなく、人と人の新たな関係性について思索している。

 著者が理事長を務めるNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の調査によると、こども食堂は2020年12月時点で全国に少なくとも4960カ所ある。1年で1200カ所増え、4年間で16倍になった。

 こども食堂には「貧困の子を集めて食事をさせるところ」といったイメージがあるが、ここに描かれるこども食堂は、実に楽しそうな、人と人の交流の場だ。ボランティアのスタッフ、初めは逡巡(しゅんじゅん)していたが思い切って飛び込んだ母親、年寄りなどと子供たちが、多様な交流を重ねている。子供たちは異年齢の人びとと積極的に関わり大家族のようだ。こども食堂はそこに集う人びとの個性と自由を基本としている。それを大切にしながら、核家族化の進行、地域社会の疎遠化のなかで、居場所の創造が試みられている。

 コロナ禍によってこども食堂の展開は、大きな制約を受けた。こども食堂の半数は活動を休止したが、半数は弁当や食材の配布活動を展開した。著者はこうした活動のなかに新たな社会変化をみる。生活が「大変です」と言いやすくなったからこそ、弁当や食材の配布が容易に受け入れられるようになったのだ。

 もちろん、コロナ禍のなかでこども食堂の運営者の悩みも多い。だが既存の政策・制度では実現でない価値の追求こそ、こども食堂の原点である。地域が物理的にも精神的にも「疎」になったからこそ、「密」を生みだそうとしてこども食堂は始まった。子供の減少は地域の有限性(終わり、消滅)を見せつけたが、こども食堂はそれへの挑戦なのだ。

 著者は「こども食堂があたりまえにある街」が目標という。誰も排除しない、みんなを包み込む社会が、順風満帆に実現するはずもない。とはいえ、本書はこの「不安の時代」に人びとのつながりを試行するこども食堂の意義を説くことで、社会に勇気と希望を与える好著である。

(新藤宗幸・千葉大名誉教授)


 湯浅 誠(ゆあさ・まこと) 1969年生まれ。社会活動家。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。90年代よりホームレス支援に従事し、2009年から3年間、内閣府参与を務めた。著書に『「なんとかする」子どもの貧困』など。

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