教養・歴史書評

知の巨人・立花隆氏最後の本は、人間の未来を語る伝説の講義から=田代秀敏

    『サピエンスの未来 伝説の東大講義』 評者・田代秀敏

    著者 立花隆(ノンフィクション作家) 講談社現代新書 1430円

    「すべてを進化の相の下で見よ」 根源的問題に挑んだ“知の巨人”

    「よい本を、このタイミングで出してくれてありがとう」

     最後の著作となった本書の刊行翌月、著者は協力したライターに電話して礼を言い、その翌月永眠した。

     そのライターは、1996年に東京大学教養学部(駒場)で著者が行った「伝説の東大講義」 を聴いた学生の1人であった。

    「東大講義をしていたころが、心身状態のピーク」であったと著者自身が後に述べた通り、毎週1回数時間の講義は白熱し、論点は「宇宙、生命、進化、コンピューター、哲学、文学、宗教、歴史、社会など、理系、文系のあらゆる領域」にわたった。

     その講義内容を「オリジナル資料に本格的に当たり直し」て「すべて書き下ろし」た月刊『新潮』連載の約23%分をまとめたのが本書である。

     25年前の講義であるが、最も根源的な問題ばかりを論じているので、内容は少しも古びていない。

    「すべてを進化の相の下で見よ」が本書のテーマである。

     手がかりとするのは「アインシュタインとならぶような20世紀を代表する知的巨人」であるテイヤール・ド・シャルダンの極めてユニークかつ壮大な進化論である。

     テイヤールは、進化論を当時認めていなかったカトリック教会内のイエズス会の司祭であると同時に古生物学者であり、北京原人の化石を発掘するなど人間の進化を研究した。

     実際の講義ではテイヤールの主著『現象としての人間』に20分程度を割いただけだったが、本書では本文の約70%を割き、著作集全11巻を駆使して、テイヤールのとてつもなく大きな全体像に、『田中角栄研究』と同じジャーナリズムの手法で、知的興奮をかきたてながら迫っていく。

     テイヤールは、言語を獲得し共同思考をするようになった人間は肉体ではなく脳と脳との関係を舞台に進化し、その果てに人類は一体となって思考するようになると考えた。

     共同思考の網の目が密になると、集団的記憶が出現し、思考伝達が神経組織網のように発達すると、インターネットを予見していた。

     当時開発されたばかりのコンピューターについて、「我々の内にある《思考速度》の非常に重要な因子を増加させ」ると、その可能性を的確に見抜いていた。

     人類の進化の未来を展望する「よい本を」、世界金融危機、気候変動、パンデミック(世界全域での感染症流行)など地球規模の問題が続出している「このタイミングで出してくれ」た著者に、冒頭の言葉を捧げて追悼の辞の代わりとしたい。

    (田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


     立花隆(たちばな・たかし) 1940年生まれ。東京大学文学部フランス文学科卒業。文藝春秋に入社し『週刊文春』記者となるも約2年半で退社。67年、東京大学文学部哲学科に学士入学。在学中にフリーのジャーナリストとして執筆活動開始。著作は100冊を超える。今年4月30日に逝去。

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